日本で唯一の犯罪加害者支援団体代表・阿部恭子に聞く、“刑務所の内側と外側”
#映画 #刑務所
──現在、加害者に向けた再犯防止のカウンセリングも行っているそうですね。
阿部 「被害者教育」「贖罪教育」などとも呼ばれていますが、全国の刑務所で始まっている教育プログラムの一つとして、加害者の家族の心情を理解するためのクラスに携わっています。加害者の方たちに対して、みなさんが社会と隔てられた場所にいる間に、家族のみなさんはこんな思いでいるんですよ、というのを伝える講義をしています。加害者の家族の方は、本当につらい目に遭っています。「自分も刑務所の中に入りたい」と思わず考えてしまうほど、世の中のバッシングがひどく、生き地獄のような場合があるんです。守ってくれる人がいない状態。ただそういう事実を加害者に伝えるだけでは、一方的に責めているように捉える方もいるかもしれませんが、責めることが講義の目的ではありません。自分の起こした事件を、もうちょっと客観的に見てみようというのが目的です。
また、まだはじまったばかりのプログラムですが、「なぜ、このような事件が起きたか」を聞くグループ・カウンセリングを3~4人単位で行っています。「なぜ」は被害者側の方々はもちろん、加害者の家族も聞きたいことです。どうして止められなかったか、と自分を責めてしまう方も多いので。裁判ではその「なぜ」の伝え方が違ってきてしまうので、カウンセリングでは罪名などではなく、「あなたはどんな悪いことをしましたか」「あなたが傷つけた人は誰ですか」と問いかけます。こめかみが痛くなるぐらい、神経を使う瞬間が多くあります。事件によって、たくさんの人が傷つきます。こちらも問いかけるのはとても苦しくはありますが、起きたことは元には戻せないので、その中で「なぜこのような事件が起きたか」話してもらい、自分が起こしたことを意味付けしてもらっています。
──最後に一言どうぞ。
阿部 言葉では説明できないことを感じられるのが映画だと思います。みなさんあまり考えたくないことだと思いますが、家族がどこかで何を犯してしまうかはわからないですし、家族が過ちを犯さないようにすることは完全には不可能ですよね。交通事故などもありますし、潜在的には誰もが加害者家族になる可能性を持っています。加害者も、その家族も、私たちとなんら変わらない、普通の人なんです。私は、愛する人たちのために一生懸命である人を応援したいと思っています。『愛について、ある土曜日の面会室』で描かれる刑務所の内側と外側の人々の交流、人間模様を見て、塀の中の人にも想いをはせてもらえればと思います。
●阿部恭子
1977年宮城県生まれ。10代前半より、社会的少数者や弱者の権利擁護、生活を支援する活動に参加。08年8月、東北大学大学院在学中に自ら発起人となり同級生らと人権問題を調査研究するための団体「World Open Heart」を設立。これまで見過ごされてきた「犯罪加害者家族」という問題に気がつき、仙台市を拠点として当事者に必要な支援活動を開始。全国的な支援体制の構築に向けて東京、大阪でも活動を展開している。近年、再犯防止教育の一環として、受刑者らに被害者家族の現状を伝える活動にも力を入れている。
●『愛について、ある土曜日の面会室』
大女優カトリーヌ・ドヌーヴも称賛! フランスの新星レア・フェネール監督衝撃のデビュー作。フランス・マルセイユ。ロール、ステファン、ゾラは、同じ町に暮らしながらお互いを知らない。サッカーに夢中な少女ロール。ある日、初恋の人アレクサンドルが逮捕されてしまうが、未成年のロールは面会ができず想いを募らせてゆく……。仕事も人間関係もうまくいっていないステファン。偶然出会ったピエールに、自分と瓜二つの受刑者と「入れ替わる」という奇妙な依頼を持ちかけられ、多額の報酬に心が揺らぎだす……。息子が殺されたとの訃報を受けた、アルジェリアに暮らすゾラ。突然の死の真相を探るためフランスへと渡り、加害者の姉に接触し交流を深めてゆくが……。ある土曜日の朝、3人はそれぞれの悲しみや痛みを受け入れ、運命を切り開くために刑務所の面会室へと向かう。
監督:脚本:レア・フェネール 出演:ファリダ・ラウアッジ『ジョルダーニ家の人々』、レダ・カテブ『預言者』、ポーリン・エチエンヌ マルク・ロティエ『親指の標本』、デルフィーヌ・シュイヨー『ポーラX』、ディナーラ・ドルカーロワ『動くな、死ね、甦れ!』
2009年/フランス/35ミリ/1:1.85/ドルビーSRD/120分 原題:Qu’un seul tienne et les autres suivront
12月15日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
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