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日刊サイゾー トップ > 社会 > 事件  > 加害者支援という現実
フランス映画『愛について、ある土曜日の面会室』公開記念インタビュー

日本で唯一の犯罪加害者支援団体代表・阿部恭子に聞く、“刑務所の内側と外側”

──阿部さんはどういった経緯で、いまのような加害者家族の支援活動をはじめたのでしょうか?

阿部 私は、犯罪の被害に遭った経験もあり、どちらかといえば、被害者の権利の方に関心がありました。大学院で、被害者支援について調査している時、「加害者の家族」という存在に気がつきました。実際、東北でも加害者家族が自責の念から自殺に至るという事件が起きていました。驚いたことに、こうした加害者家族が支援を受けることができる機関や団体が、国内にまったく存在しなかったのです。悲しみを分かち合うこともできず、自分が犯したわけでもない罪を背負って生きている……。苦しいだろうな……何かできないかと考えました。特に、子どもに罪はないはずです。それでも、家族の前科というものが就職や結婚の時に問題となってしまう。こうした不条理な差別をしない社会にしていきたいと思いました。

──実際、阿部さんは、加害者家族に対してどのようなサポートをしていらっしゃるのでしょうか。

阿部 もしも家族が逮捕されたと聞かされたら、どうしますか? 「何をしていいのかわからない」が、多くの方の正直なところだと思います。そのため、電話をいただいたら、まず家族として、いま何をすればよいのかをお伝えします。加害者の方がどの段階にいるかによって、やることは決まってきます。警察からの事情聴取があるかもしれませんし、裁判の時に証人として家族が呼ばれる可能性もあります。そういった今後起こりうることを説明します。まずは主に情報提供ですね。みなさん慣れない場所なので、裁判所や刑務所に付き添ったりもします。また、いろいろな手続きの必要が出てきます。離婚しなければいけないとか。私たちが活動している仙台で一番多い相談は、転居です。団体の副理事長が不動産経営者なので、土地を売ったり、転居先を見つけたりと、総合的なサポートをしています。こうした事務的なサポートとは別に、とても必要なのが、心に寄り添うことです。映画の中の少女ロールのように、(夫や恋人が逮捕された後で妊娠が分かって)「おなかに宿ってしまった子どもを産むべきかどうかわからない」という相談もあるんです。そういう状況になってしまうと、本当にどうしたらいいか本人もわからなくなってしまうんです。絶対的な答えなどないので、話を聞いて、とことん一緒に考える。これしかないですね。

──映画では、殺人を犯した青年の姉セリーヌが、加害者の家族として登場します。セリーヌの姿をご覧になって、どのようなことを感じられましたか?

阿部 セリーヌは一人でいる時も人前でもよく涙を流していますが、日本人は人前ではなかなか泣けないですよね。裁判でも耐えるほうが多いです。私は傍聴の付き添いもするのですが、やはり自分の子どもが手錠をかけられている姿を見るというのはとても心苦しい。「こんな子を産んでしまった……」などと考えてしまう親の心の痛みは計り知れないです。でも、ここで泣いてしまったら、自分が家族であることがわかってしまう……と涙をたえていらっしゃった方もいました。でも、本当は「泣き叫びたい、死んでしまいたい」といった気持ちだと思います。

──映画では、被害者家族と加害者家族が交流をします。そのようなことは実際にありますか?

阿部 いえ、私の知っている限りではないですね……。ただ、隣人や親戚が加害者と被害者という関係になってしまうケースは結構あります。そういった意味では、現実には非常に距離が近くなってしまうことはあるかもしれません。その場合は、また違った問題が生じてくるかと思いますが。実際に活動の中で、「こんなこと、映画でしかありえない」って思うようなことが起きているので、何が起きてもおかしくないかなとは思います。

──「映画でしかありえないこと」とは、具体的にはどんなことがありますか?

阿部 マスコミが家に押し寄せて、夜でも明かりが煌々としているなんて、まさに映画でしかありえないことですよね。私たちの団体につながって下さる家族は、たいてい普通の生活をしてきた方たちです。そうした普通の生活が一転する。テレビでもネットでも自分の家族の名前が飛び交っている。まるで、日本中を敵に回してしまったかのような恐怖です。みなさん、悪夢のようだとおっしゃいます。

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