『007スカイフォール』組織と個人の関係を見つめ直すジェームズ・ボンド 伝統と革新が織り成す記念作
#映画
ダニエル・クレイグ。無精髭姿のまま任務に赴く。
ジェームズ・ボンドが射殺される、衝撃的なシークエンスから幕を開ける『007スカイフォール』。人気シリーズ第23作目、初代ジェームズ・ボンドを演じたショーン・コネリー主演作『007ドクター・ノオ』(62)の公開から50年を記念したメモリアル大作だ。ダニエル・クレイグ演じる第6代目ジェームズ・ボンドは序盤で一度死ぬ。しかも、上司であるMの指令を受けた同僚の手によって。『007スカイフォール』は忠誠を誓った組織から冷酷な処分を下されたひとりの男が、死の淵から這い上がって復活を遂げる人間臭いドラマとなっている。大ヒットした『007カジノロワイヤル』(06)『007慰めの報酬』(08)でまだ洗練されていない感情に押し流される未完成のボンド像を演じたダニエル・クレイグが、本作で“伝説の男”007へと完全脱皮を果たす。
50周年記念作として迎え入れられたのが、『アメリカン・ビューティー』(99)でアカデミー監督賞を受賞したサム・メンデス監督。主演のダニエル・クレイグとは『ロード・トゥ・パーディション』(02)で組んだ仲だ。オスカーとは無縁のエンターテイメント路線の印象の強い『007』シリーズだが、歴代ジェームズ・ボンドを観て育ったイギリス出身のサム・メンデス監督の起用がうまくハマった。誤射とはいえ味方の狙撃によってこの世から一度葬り去られたボンドが、所属するMI6(英国情報局秘密情報部)における自分の役割、命を預けた上司・Mとの関係、そして自分自身の生い立ちを見つめ直した上で、改めてアイデンティティーを確立するというメインテーマがしっかりと据えられている。また、メンデス監督はMI6という秘密組織を、Mを家長とする一種の疑似家族として捉えている。IT全盛の時代、MI6の存在意義が揺らぐ中で、この世とあの世のギリギリラインから辛うじて生還したボンドが帰巣本能さながらMI6に戻ってくる。さらにQやイヴという新しい仲間が加わる。
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