『007スカイフォール』組織と個人の関係を見つめ直すジェームズ・ボンド 伝統と革新が織り成す記念作
#映画
アシスタント・エージェントのイヴ(ナオミ・ハリス)といいムードに。
物語はイスタンブールから始まる。NATOの秘密工作員たちのリストが入った極秘データが盗み出され、ボンド(ダニエル・クレイグ)は追跡の真っ最中だ。もし、この極秘データが公表されれば、世界各地で潜入捜査中の工作員たちが危険に晒されるだけでなく、国際情勢が激変しかねない。ボンドは敵を追い詰めるが、揉み合っているところをM(ジュディ・リンチ)の指令を受けたアシスタント・エージェントのイヴ(ナオミ・ハリス)に誤射されるはめに。そしてボンドがいなくなったロンドン。MI6本部は何者かのサイバーテロを受けて、爆破されてしまう。極秘データの流出に続く、大失態。窮地に陥ったMI6を守るため、それまで消息を絶っていたボンドが帰ってくる。無精髭をボーボーに生やした、今まで見せたことのないヨレヨレのジェームズ・ボンドだ。
現場復帰のための適正試験を辛うじてクリアしたボンドは、自分が被弾した銃弾から敵の潜伏先を割り出し、上海、さらにマカオへと向かう。そこで待っていたのは、一連の事件の黒幕であるシルヴァ(ハビエル・バルデム)。シルヴァはボンドと同じく、かつてはMの片腕として活躍したMI6の辣腕諜報部員だった。ボンドがつい数か月前に経験したように、シルヴァもMI6からトカゲのシッポ切り扱いを受け、生き地獄を味わった。自分を見限ったMI6への恨みを晴らしたい一心で生きながらえる復讐鬼だったのだ。Mのために命を捧げて戦ってきただけに、Mへの憎悪はハンパない。ボンドとシルヴァはお互いに“合わせ鏡”的な存在だ。生死の境目で、ダークサイドに堕ちたか免れたかの違いに過ぎない。中東、中国、そしてイギリス、とワールドワイドに展開される物語の中で、シルヴァとボンドはどちらがよりMI6におけるマザー的な存在・Mに深く愛されたかを争い合う矮小なドラマが繰り広げられる。『アメリカン・ビューティー』や『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』(08)で傍からは立派そうに見える家庭が、小さなほころびから一気に内部崩壊してしまう様子を描いたサム・メンデス監督らしい演出となっている。
冒頭13分間のシークエンスのために準備3カ月、撮影に2カ月を要した生身のアクションシーンの迫力、ダニエル・クレイグとジュディ・リンチに『ノーカントリー』(08)のハビエル・バルデムを交えた実力派俳優たちによる愛憎劇、『007』シリーズを敬愛するサム・メンデス監督の新加入。それらの要素ががっちりと噛み合った見応えのある内容だ。数ある見どころの中でも注目は、本作のボンドガールとなるセヴリン(ベレニス・マーロウ)に誘われてボンドが乗り込むマカオ沖の孤島。シルヴァが秘密の拠点としているこの孤島は、廃墟マニアの間で有名な長崎県の「軍艦島」がモデル。スタッフが現地をロケハンし、そこで撮った写真をベースにロンドン郊外にセットが組まれたそうだ。「軍艦島」はボンドとシルヴァが初めて対峙する印象的なシーンとなっている。他にもマニア心をくすぐる見逃せないシーンが目白押しだ。とりわけイギリスに戻ってからの後半パートは、『007』シリーズの長年のファンにとって感涙場面の連続。意味深なタイトル『スカイフォール』の秘密と共に、ジェームズ・ボンドの生い立ちが明かされていく。
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