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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.199

“耳フェチ”には堪えられない青春官能ムービー!『耳をかく女』桜木梨奈の無印演技に癒やされたい

mimiwokakuonnna3.jpg絵菜は耳かきの研修を受けることに。主演に抜擢された桜木梨奈は
実際の耳かきサロンに通うなどして役づくりに励んだ。

 本作が映画初出演となる新人女優・桜木梨奈をオーディションで抜擢したのは、堀内博志監督。今年7月に『私の悲しみ』(11)で劇映画デビューを果たしたばかり新鋭監督だ。『私の悲しみ』は14人の男女がもつれ合う群像劇をロバート・アルトマン監督ばりに巧みにさばいてみせた演出手腕が見事だった。今回はその手腕がヒロインの揺れ動く心理を描くことにフォーカスが絞られている。堀内監督に聞いたところ、こんな耳より情報を教えてくれた。

「オーディション初日のいちばん最初に会ったのが桜木梨奈。オーディション会場は駅から5分の場所だったのに、彼女は30分掛けて現われ、焦りまくっていた。やる気はあるのに、つい空回りしてしまう。その様子は絵菜そのものでした(笑)。オーディションに参加してもらった女優のみなさんの耳を最後に拝見させてもらったんですが、彼女の耳の美しさは際立っていましたね。顔がきれいでも、耳とのバランスがとれている女性って意外と少ないんです。それにピアスの穴を開けてなかったことも、大きな決め手でした。演技経験はあまりないけど、彼女に賭けてみようと思えたんです」。

 形の整った両耳と同じように、緩やかな曲線美を見せる桜木梨奈の裸体をカメラが捉える。オーディション時はドジっ娘ぶりを見せてしまった桜木だが、撮影現場では肝の座った演技を見せ、スタッフの期待に応えてみせた。中でも堀内監督の丁寧な演出とカメラマン・三本木久城の適切なカメラワークがうまくハマった後半の雨の海水浴シーンは秀逸。海中を漂う寄るべなきヒロインの姿が目に焼き付く。その昔、人間が海中に棲むアンモナイトのような原生動物だった頃の記憶が甦ってくるかのような、プリミティブな厳粛さと美しさが感じられるシーンになっている。

 震災以降、コミュニケーション不全に陥っていた絵菜だったが、多くの人たちの耳たぶに触れ続けることで次第に落ち着きを取り戻していく。人間の体の中でもっとも柔らかい部位なのに、いつも剥き出し状態でさらされている耳のことが絵菜は愛おしく思えてくる。また、絵菜の耳の形の良さに心を惹かれているアマチュアカメラマンの川村(中田暁良)も、絵菜から「変態ですね」と言われながら自分が耳にこだわる理由に気づかされる。物語の進行と共に耳に関するさまざまなトラブルが集約されていき、それらの問題はずっと溜まっていた耳垢のごとく一気にラストで除去されていく。この爽快感が堪らない。

 最後に映画とはまったく関係ない余談だが、髪からキレイな耳を出している女性を見かけると、うっとり見とれてしまうのと同時にほんの少し切なくなる。左右対象形の双子のような2つの耳は、両手や両足と違って一生出会うことがない。あんなに美しくて、そっくりな相似形なのに、お互いの存在を知らないままの一対の耳たち。多分、耳という部位の佇まいには孤独な美しさがあるのだ。そんなふうに耳のことを考え出すと、ついつい自分を失ってしまう。そして、その美しさに少しばかりの哀しみを覚える。
(文=長野辰次)

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『耳をかく女』
監督・脚本・編集/堀内博志 撮影/三本木久城 音楽/Satomimagase 出演/桜木梨奈、中田暁良、広澤草、宇野祥平、笹原紳司、正木佐和、安藤一人 配給/パーフェクトワールド 11月24日より新宿K’s cinemaにてレイトショー公開中 (c)スターボード <http://mimi-movie.perfect-world.me>

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