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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.199

“耳フェチ”には堪えられない青春官能ムービー!『耳をかく女』桜木梨奈の無印演技に癒やされたい

mimiwokakuonnna1.jpg“耳にこだわった映画”というオファーを受けて
堀内博志監督が撮った『耳をかく女』。耳かきの心地よさに思わず吐息が漏れる。

 映画にはさまざまなフェチズムが溢れている。その中でも忘れられないのが高倉健主演の『夜叉』(85)だ。ヤクザ稼業から足を洗った健さんは北陸の漁村で良き夫・良き父親として平穏に暮らしていたが、ふとしたことから飲み屋のママである田中裕子とホテルでひと晩を過ごす。田中裕子を抱きかかえた健さんはおもむろに彼女の耳たぶを甘噛みし、そのとき健さんはニヤッと笑う。「どうせ、お前も好きなんだろう?」と健さんに自分の性癖を見破られたような気がして、観ていてドキッとした。そんな耳フェチなら見逃せない映画が現在公開中だ。タイトルはずばり『耳をかく女』。耳かきサロンに勤めるヒロイン・桜木梨奈の鮮烈なるエロティズムが漂う青春映画の好編となっている。

 他人の手で耳掃除をしてもらうと、思いがけず大きな耳垢の塊が発掘され、赤面したくなる恥ずかしさと同時に何とも言えない快感が込み上げてくる。耳のずっと奥に潜んでいる蝸牛管から喜びの潮が渦を巻きながら満ちてくる。あまりの気持ちよさに体ごとグルングルンと回り出してしまいそうだ。誰しもが経験したであろうあの喜びの瞬間が、『耳をかく女』ではノーカットモザイク処理なしで描かれる。スカーレット・ヨハンソン主演作『真珠の耳飾りの少女』(03)ではピアス穴を開ける瞬間が官能的に描かれていたが、やはり膝枕&耳かきに勝る快楽プレイはそうそうないだろう。

mimiwokakuonnna2.jpg就活に苦戦する絵菜(桜木梨奈)。自分が
社会からまるで必要とされていないように
感じられ、焦れば焦るほど空回りしてしまう。

 主人公の絵菜(桜木梨奈)は卒業を間近に控えた大学生。出版社への就職が決まっており、恋人(笹原紳司)の部屋で甘く楽しい学生生活の残りを楽しんでいた。その日も恋人の部屋でまったりと過ごしていたが、絵菜は今まで経験したことのない耳鳴りに襲われ、体の均衡が失われてしまう。それは絵菜だけが感じた衝撃ではなかった。巨大地震が起きたのだ。ベッドの横にいたはずの恋人は真っ先に逃げ出し、震災の影響で就職も取り消されてしまった。家を流されて家族を失った人たちに比べれば、このぐらいのことで泣き言なんて云ってられない。でも、マジメに学校を卒業して、きちんとした企業に勤めることしか考えてこなかった絵菜は、これからどうすればいいのか途方に暮れてしまう。とりあえず、リクルートスーツを引っ張り出して就職活動を再開するが、面接官の声がやけに遠い。絵菜はいつの間にか難聴を煩うようになっていた。補聴器が手放せなくなってしまう。見た目は以前と変わらない絵菜だが、震災以降、何かが自分の中で変わってしまったのだ。

 いつまでも就職先が見つからない絵菜は、女友達の紹介で「耳かきサロン」で働き始めることに。性風俗まがいのいかがわしいサービスを強いられるのではないかと、不安げな表情のまま研修を受ける絵菜。先輩の耳かき嬢(広澤草)の膝に身を委ねた絵菜は、あまりの心地よさにうっとりする。先輩の手慣れた耳かきがリズミカルに外耳道の側面を刺激する。思わずエクスタシーに達した絵菜は、日々のストレスから自分が解放されていくのを感じる。こんなサービスが自分にもできるかしら。浴衣に着替えた絵菜はおぼつかない手つきながら、自分の膝の上に置かれたさまざまな形をした耳朶に対して慎重に慎重にマッサージを施す。彼女の初々しさに、男たちが行列をなすようになる。膝枕の温かさに童心に帰る客、日頃の愚痴をこぼすことでスッキリする客、耳掃除した後のティッシュを絵菜に嗅がせて喜ぶ客……。ストレスで悩んでいるのは自分ひとりではなかった。男たちが抱える疲れを癒やすことが、絵菜にとっての喜びとなっていく。ささやかながら社会との接点を持てたことが、時給以上に絵菜にはうれしい。

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