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“陰のトップ”出井元CEO、最先端の経営…4期連続赤字の元凶とは?

元幹部が語る「内側からみた、ソニー迷走の“本当の”理由と再建策」

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元幹部が語る「内側からみた、ソニー迷走の“本当の”理由と再建策」 – Business Journal(11月21日)

『ソニー 失われた20年』
(さくら舎/原田節雄)

 ソニーの業績がおかしい。

 連結売上高は2008年3月期の8兆8714億円から6兆4932億円へ急降下し、4年間で売上の約4分の3が失われた。09年3月期以来4期連続最終赤字で、その額は12年3月期は4566億円という巨額に膨らみ、11月1日に発表された第2四半期決算も401億円の最終赤字だった。シャープやパナソニックの業績の悪さが衝撃的だったので目立たなくなったが、「世界のソニー」もまた、深刻な業績悪化に見舞われている。

 かつて、日本を代表するエクセレントカンパニーだったソニーは、どうしてこんなにダメになってしまったのか? 

 70年に入社以来40年間ソニーに身を置き、技術系幹部も務めた原田節雄氏は、9月、『ソニー 失われた20年ーー内側から見た無能と希望』(さくら舎)という本を出版し、話題になっている。その原田氏に、

 「ソニーをこんな状態にしたのは、いったい誰の責任なのか?」
 「どこに問題があったのか?」

などについて聞いた。

●ソニーは異質な会社だったから、苦しんでいる

ーーソニーといえば、世界に通用する技術を持ち、斬新なヒット商品を出しては話題を提供し、宣伝が上手でスマートで国際的というイメージがあり、「日本の普通の会社とは違う」と特別視される存在でした。40年在籍されて、実際はどうなんでしょうか?

原田節雄氏(以下、原田) 盛田(昭夫)さんの時代のソニーは、いろいろ失敗を繰り返しながら一生懸命に仕事に取り組む武骨な会社でした。本田宗一郎さんの頃のホンダも多分そうでしょう。それを出井(伸之、元CEO)さんの時代にやらなくなり、うわべだけに走って、恐らくそれが「スマート」と言われるゆえんでしょうか。

 しかし、経営はスマートにはできませんよ。ただ、「ソニー異質論」はその通りで、日立、三菱電機、東芝は今も官公庁需要が大きい会社ですが、ソニーは官需に頼らず自由なビジネスをして海外に出て行くようになりました。国内、海外を問わず一般コンシューマー(消費者)が楽しめる製品をつくるというコンセプトを確立して、盛田さんの時代にはすでにドメスティックな会社ではなく、日本企業としては異質だったと思います。外国部の社員は永住覚悟で欧米に出ていき、製品をどんどん売って、それが国際的なイメージになったのでしょうが、出井さんの時代から、逆に徐々にドメスティックになったように感じます。

ーーソニーは異質な会社だった頃のほうがよかった、ということですか?

原田 いや、異質は本当はよくないんです。今のように不況の時代になると、内需で養っていける日立、三菱電機、東芝のほうが潤っています。また、異質なソニーのような会社は輸出が拡大した時代はよかったのですが、今は苦しんでいます。私は、ソニーも内需と外需、官需と民需の両方を、部署を違えながらバランスよく持つべきだったと思います。官需のような安定した部門と、新たにチャレンジするベンチャー的な部門の両方を持つというのは、経営の原理原則ではないでしょうか。ある時は一方に力を入れて、またある時は別のほうに力を入れればいいんです。

ーーそうしなかったから4期連続最終赤字です。今期は、中間期は赤字でも通年の本決算は黒字になる見通しを変えていませんが。

原田 赤字が続く中でトップが非常に高い給料を取り続けては、誰が見てもおかしいと思います。だから黒字にしたいんでしょう。

●期待していた平井社長に裏切られた

ーー今のトップは平井(一夫)社長ですが、彼はソニーを立て直せると思いますか?

原田 CEOですし、手腕は未知数ながら過去の負の遺産を払拭して新しく出直し、1〜2年先の方向を示して、会社を変えられるのは彼しかいないと期待してこの本を書いたのです。しかし、裏切られました。10月19日にソニー美濃加茂の工場閉鎖と2000人のリストラを発表、1週間後にNHKに出演し「ソニーはこうやってよみがえる」と発言しましたが、それはまったくおかしい。社長がやるべきなのは、美濃加茂で全員の前で頭を下げ、働いている人の気持ちを思いやって、「私の力が足りないために、ここまできてしまいました。なんとかがんばるので頼みます」と、詫びてお願いすることだと思うのですが。

ーーこれだけ業績が悪いと、リストラも必要になるかと思いますが。

原田 今の状態だと縮小は仕方ないです。もともと閉鎖予定の工場でしたし、人を減らすのはいいんですが、やり方が問題です。公表する必要は何もない。それに、なんのためにNHKに出たのか? 足元でやるべきことがあるでしょう。働いている人の気持ちを思いやって、「仕方なく人減らしをやります。でも、10年、20年後にはソニーはよみがえります」と、なぜ言えなかったのでしょうか。

ーー株主よりも、まず従業員ですか?

原田 こんな時に、先に見るべきなのは従業員の目です。株主の目ではありません。従業員がハッピーになり、業績が黒字になれば、株主もハッピーになるでしょう。

●出井元CEOの「EVA経営」の根本的な間違い

ーー出井さんの時代に株主重視のEVA経営を目指しましたが、それがそもそも間違いの始まりだった、ということですか?

原田 そうですね。内部に対する数値重視もそうです。企業経営では、決算を赤字から黒字に変えるのは実は簡単で、社長命令で人減らしをして人件費を減らせばいい。でも、製造業は金融や保険とは違います。金融や保険はお金を動かしていて、雇用数は少ない。一方、製造業は大勢の人を雇って、一緒に食べていけて幸せになることも重要な企業目的です。そんな、まるで違うものを一緒にして「あっちは儲かっている」と言うのは間違いです。

ーー出井さんは、ソニーをGEと比較していましたね。

原田 GEは 、その頃すでに製造業ではありませんでした。私は株主や時価総額をまったく無視する必要はないと思いますが、それを中心に据えるのは間違いで、現場を重視するやり方と、両方進めるべきでした。官需と民需、安定とチャレンジのバランスと同じように、どちらか一方に偏るのはよくありません。私はこの本の中で、ソニーは今後、バランスを取るべきだと何度も強調しています。

ーーその出井さん以降、安藤(國威)さん、中鉢(良治)さん、(ハワード・)ストリンガーさんと社長が交代して、ストリンガーさんの時代からずっと最終赤字です。この方の責任も重いのですか?

原田 いいえ、出井さんが陰のトップなのは変わりません。社長が交代しても出井さんが築いたものをずっと踏襲していて、何も変わっていません。ストリンガーさんは、何もせずに座っていただけのような人でした。

ーー出井さんはソニーのアドバイザリーボード議長をまだ続けていますが、今でも影響力は大きいんですか?

原田 アドバイザリーボードは、最初は実態が見えていましたが、今は見えなくなりました。でも、誰が出席しているかもわからないようでは問題です。これを廃止することが改革の第一ステップだと思います。

ーー平井社長は、はたして猫の首に鈴を付けられるか、ということでしょうか?

原田 出井さんに、自分を引き立ててくれて世話になった恩義は感じていても、1人の先輩のことより、グループ全体で何万人もいる従業員のことを考えたら、やらなければなりません。それが経営者というものです。会社の実情を考えたら、出井さんと一切の縁を切るところまでやる必要があると思います。つらく淋しく孤独な決断ですが、リストラされて去っていく従業員がいる中で、高い給料をもらっているトップが果たすべき使命でしょう。やれば、「よし、会社を立て直そう」と社内の士気は高まると思います。

●トップの条件は、社内の人間が見えていること

ーー今のソニーには、どんなタイプの経営者が必要なのですか?

原田 私は、ソニー創業者の井深(大)さんや盛田さんは「いろは坂型社長」だったと思います。社長はいろいろな部門を経験していて、ほとんどの社員と直接話をして人間を知っている。組織は人でできていますが、社長から見れば人間としての人「人間人」を使いこなせた。出井さんは「はしご型社長」でした。ある部門だけで、はしごを頂上まで上がっていったから、ほかの部分は見えないんですね。だから、社長から見れば道具としての人「道具人」を見つけて使う。能力がある人を、使える道具として使います。しかしそれはノコギリと同じで、使う人が下手だったら、うまく切れません。

 ストリンガーさんは「パラシュート型社長」でした。落下傘で頂上に降りて、会社の中は何も見えません。どこにどんな人がいるかもわからない。そんな社長にとって、人は機械と同じ。まさに「機械人」です。平井さんも、パラシュート型社長だと思っています。

ーーそうすると、はしご型やパラシュート型の社長ではダメで、昭和の時代のような「いろは坂型社長」でないとソニーの社長は務まらない、ということですか?

原田 いいえ、時代が時代ですから、パラシュート型でもかまわないんです。それでも、着地点が頂上や、副社長や役員のような頂上近くではなく、もっと下の現場のほうで、駆け足でもいいから部署を回ってさまざまな社員と接し、「人間人」を知って、それを使いこなせるようになってくれればいい。本来は、組織を下から走ってきて、社内の人間がちゃんと見えているかどうかが、トップの条件だと思います。

ーー新卒で現場に入って上がっていった人なら、ふさわしいですか?

原田 いや、今の新卒はみんな大卒・院卒で、最初からエリートとして本社の経営・財務・間接部門に入りますから、経営陣は近くで見てますが、現場を知っているとは限りません。子会社の経営を任されても、それは低い山の頂上に降りるパラシュート型社長で、そこの現場は見ていません。昔のソニーはエリートではない現場たたき上げの人でも、役員まで出世できる可能性が大きかったのですが、今は違います。せめてエリートとノン・エリートの間の昇格、降格のしくみがあれば、緊張感があってまだいいのですが……。

ーーエリートはどうしても、権力を持つ上のほうばかり見てしまいますね。

原田 入社した頃はそうでなくても、こんな体質の組織に入るとだんだん変わっていきます。人格も変わります。そうならないように、会社のために貢献して業績が良くなれば自分も幸せになれるという思想をエリートに植え付けるのが、トップの役目です。

●ソニーが復活を果たすために何をすべきか

ーーソニーが今、復活のために直すべき部分はどこなんでしょうか?

原田 ソニーは昔から研究、製品開発、デザイン、製造、国内営業、海外営業、宣伝など各部署の間のコミュニケーションが弱くて、トップがそれぞれをしっかり見ていた頃はまだうまくいったのですが、そうでない人がトップになるとバラバラになりました。社員が複数の部署を異動して、お互いのコミュニケーションを密にするべきでしょう。それは、本社と主要な子会社の間でも同様だと思います。

ーー部門の収益についてはどうでしょう。

原田 私は、赤字であるべき部門は赤字でいいと思います。子会社もそうです。「健全な赤字部門」は、他事業で補てんすればいいんです。企業全体も10年単位で赤字が続けばおかしいですが、1年だけ赤字なのは問題だと思いません。そこにちゃんとした理由があればいい。総合的にとらえ「これでいい」という判断をするのが経営者です。もしどこかの部門なり子会社なりに黒字化を求めるなら、経営者は「ここをこうしてください」と具体的な方法を示すべきです。もし黒字化しなかったら、それは経営者の責任です。

ーーソニーは企業統治では最先端をいっていると言われてきましたが、いかがでしょうか?

原田 社外取締役を何人も入れても、その人がソニーのことをわかっていなければ無意味です。他の会社とは社風も何もすべて違うんですから。企業統治の制度自体はどうでもいいんです。まともな人を連れてくれば、まったく問題はないんです。

ーー人材育成の方法も変えるべきですか?

原田 ソニーに憧れて入社した若い人が、人間的に成長できるような過程を用意すべきでしょう。まず現場に入れて、光るものを感じたら「海外に行きなさい」「この事業部に行きなさい」と、いろいろな経験をさせ、10〜20年かけて、自分で物を考えられる人間、本物の人材に育てなければいけません。人事は「育てている」と言ってますが、放置しているだけでは人材は育ちません。ただ、優秀な人の能力は、その人より能力がもっと上の人でないと評価できず、経営者は、それに気づかないから過ちを犯すものです。今のソニーのように、経営トップへの出世が、「CEOと顔見知りかどうか?」で決まるような風潮になってしまうのです。

ーー経営者は、どうすればいいんですか?

原田 人を呼びつけて報告させていてはダメです。それをすると、ゴマスリばかり近寄ってきます。自分から、会社のいろいろな場所へ出かけて行かないと。経営者の仕事とは、企業と従業員に愛情を感じて、大切にして、その幸福の実現と維持に我欲を捨てて邁進すること、これに尽きます。

ーーOBとして、ソニーは復活できると信じていますか?

原田 ソニースピリット、ベンチャー魂を忘れることなく、悪い部分を切り捨てて出直せば、世界のトップランナーとして輝いた頃の姿を、きっと取り戻せると信じています。
(構成=寺尾淳/ライター ファイナンシャルプランナー)

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最終更新:2012/11/22 07:00
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