インディペンデント・ドリームをかなえた入江悠監督、“ネクスト・ステージ”からの眺めはどうですか?
#インタビュー
『SR』シリーズの入江悠監督。北関東三部作を完結させた今の心境を語った。
日本のインディペンデント映画シーンに新しい伝説を刻み付けた入江悠監督の『SRサイタマノラッパー』シリーズ。映画監督になったもののブレイクできずにいる自分自身のもどかしさをラッパーの姿を借りてブチまけた同シリーズは、地方都市を舞台にしたリアルな青春映画として全国の映画館を熱狂の渦に巻き込んでいった。そして、ついに“SR北関東シリーズ”3部作の完結編となる『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』がDVDとしてリリースされる。DVDのリリース、それは入江監督の手から最終的に『SR』シリーズが離れていくことでもある。『SRサイタマノラッパー』(09)の公開以降、ゼロ年代を代表する最注目監督となった入江監督に、シリーズ最終作に込めた想い、さらに自主映画から商業路線へと活躍の場を広げつつある今の心境について語ってもらった。
──2009年に池袋シネマ・ロサで封切られた『SRサイタマノラッパー』、続く『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』(10)、そして今年『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』が劇場公開され、北関東3部作が完結。3年間にわたる長い長い祭りが終わったような高揚感と寂しさを感じます。
入江悠監督(以下、入江) そうですねぇ、そう考えると切ないですね。確か3年前、『SRサイタマノラッパー』の公開前に日刊サイゾーで千夏役のみひろさんを取材してもらったんですよね(https://www.cyzo.com/2009/02/post_1488.html)。あの日は、『サイタマノラッパー』が初めてマスコミ取材された日だったんです。あれから、もう3年ですか。
ブロッコリー農家出身のマイティ(奥野
瑛太)。東京で暴力事件を起こして、栃木
へと流れ着く。
──みひろさんがインタビューに答えているのを、すぐ横で入江監督は不安げに見守っていましたね。3年間は長かった? それともあっという間でした?
入江 やっぱり、この3年間は長かったです。『SR』シリーズと共に走り続けた3年間でした。北海道の夕張から始まって、舞台あいさつで全国をぐるっと回って、バンドのツアーみたいな感じでしたね。ボクの埼玉の実家にみんな泊まり込んで映画の撮影して、それから全国の劇場を回って。次第にメンバーの中から売れてくるヤツが現れて、でもまだ売れないヤツもいて……という。
──個性の集合体であるバンドって、活動を続けて売れていくうちに方向性やスタンスの違いが生じてきて、解散を余儀なくされますもんね。
入江 そうなんです。ボクたちの場合、そのタイミングが、この『SR3』だったんだと思うんです。シリーズ3作を撮っているうちに、みんな事務所に所属するようになって、仕事がいろいろと回ってくるようになった。作曲家の岩崎太整は大根仁監督のテレビ版&劇場版『モテキ』に参加するようになり、活動の場所を広げていった。これ以上続けると、それまで自由にやってきた『SR』シリーズのスタッフやキャストの足かせになってしまうなと。もちろん、まだまだ『SR』シリーズとしてやりたいことはあるんですけど、インディペンデントの仲間内でやってきたという意味では、『SR3』がちょうどいい区切りになるなと思ったんです。じゃあ、『SR』シリーズでこれまでやり残したことを思い切って全部やってやろうという感じでしたね。
──『SR1』『SR2』がコメディタッチだったのに対し、『SR3』は思いっきりシリアスな方向にハンドルを切っています。
入江 ボクが飽きっぽい性格だというのが大きいですね(笑)。前2作を同じようなパターンで作っていたので、次は変えたいなと思ったんです。それと『SR1』を作り始めたのは2007年頃だったんですが、その頃に比べて、社会状況がますます悪化していったことも影響を受けているでしょうね。リーマンショックがあり、東日本大震災があり……。
──社会背景に加え、『SR』シリーズで注目を集めるようになった入江監督自身の立ち位置の変化もあると思います。『SR3』では2つのドラマが交差します。地元に残ってマイペースに自分たちの音楽を追い求めるイック(駒木根隆介)とトム(水澤紳吾)、東京に出て一発勝負してやろうという野心家のマイティ(奥野瑛太)。この相対する2つの立場は、インディペンデント映画シーンとよりメジャーな商業映画路線とのはざまで揺れ動いている、入江監督自身の葛藤なわけですね?
入江 そうなんです。地元に残ってダラダラしているイックとトム、東京に出たものの右往左往してしまうマイティ。どちらもボク自身の分身なんです。イックたちはマイペースで自分たちの好きな音楽を追い求めるけど、でもそこにはある種の限界があるわけです。かといって東京に乗り込んでみても、そこには別のしんどさが待っている。一体、どちらが正解なのか? 自分自身が分からなくなり、それで『SR3』を作ってみたんです。
──自分では分からないことを、脚本に書き、キャラクターを実際に動かしてみることで解答を探し出そうとしたということですか?
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