あのガイナックスがオペラを演出!? アニメ界の巨匠・山賀博之が挑むワーグナー
■高尚になった古いものを、本来のオタク的なものに戻していきたい
──今回、脚本も山賀さんご自身が書かれたそうですね。
山賀 これだけはやっておかないと、と思って。今までのワーグナーがとっつきにくかった理由として、まずドイツ語の翻訳が悪かったと思うんですよ。正確にドイツ語を一単語ごとに訳していくことに徹していて、結果的に妙に難しいことを言ってるような翻訳になっていたんです。それを全部取っ払って、アニメの脚本調に書き直しました(笑)。会話もアニメのキャラクターっぽくなっています。
──(脚本を見て)すごいですね。まるでアニメの台本みたいなノリのセリフが飛び交っていますね(笑)。
山賀 でも、これはめちゃくちゃに書いているわけじゃなくて、ほぼドイツ語の直訳なんです。ちょっと付け足した部分もあるけど、ほぼそのまま。逆に今までの翻訳のほうが直訳であるがゆえに、ドイツ語の持っているリアルなイメージが出せていないと思うんです。そのイメージを出すために、まずドイツ語の勉強を始めてから翻訳作業に入りました。だから、こんなに時間がかかったんです。
──今までちょっととっつきにくいと思っていた人にも分かりやすい、入門編のようなノリも今回の舞台にはありそうですね。
山賀 入門ではありません。これは行き着く先です(笑)。でもこっちのほうが、ドイツ語のニュアンスに近いと思うんですよね。あんまり一個一個の単語の正確さを拾っていくばかりだと、どうしても言葉を発した人物が本来感じた気分というのを、きちんと表現できないんじゃないかな。そう思ったので、一種超訳的な日本語で、『この人はこう言いたいんだよね』という感じで訳しました。ハリウッド映画の日本語字幕みたいなもんです。まあ、戸田奈津子さんよりは原語に近いとは思いますけど(笑)。そういう意味でいうと、オペラに格式があって分かりづらいというイメージを持っている方にはオススメです。
──今回のオペラだけでなく、もともと格式のあったメインカルチャーがアニメなどのサブカルチャーとコラボすることで、若い世代にアピールする機会が増えている昨今ですが、山賀さんはそういうトレンドについてはどう思われますか?
山賀 うちは今、茶道の漫画をやっているので(週刊ヤングマガジン11月26日号より連載予定『さどんです』)、お茶の世界もちょっと勉強させていただいているんですけど、安土桃山時代には、今のオタク文化とたいして変わらないスタイルで茶道というものがあったのに、江戸時代に形式が決まっていく。その後、明治時代の富国強兵政策で文化をとにかくレベルの高いもの、崇高なものに変えていくという流れに取り込まれていきましたけど、そろそろその呪縛から解き放たれる時なのかなと思います。もともと絵画とか音楽って楽しむためのものなのに、周りがどんどん偉いものとして持ち上げいくうちに身動き取れなくなったっていうのが、音楽に限らず、芸術の今の姿だと思います。
でも、古典芸術って、もともとは現代のオタクが求めるものとそう変わらない世界なんです。だから、自分は古いものをぶっ壊しているという意識はないです。本来あるべき姿に戻していく。固まっていたものをフワフワっと柔らかくして、本来こうやって楽しむものでしょってところに落とし込んでいる意識はあります。お茶席だって、もともとは新しい器を手に入れたから見てくれって、自慢したくてやっているだけですから。
──自慢のフィギュアの鑑賞会みたいなもんですね(笑)。
山賀 そう、鑑賞会です。それがいつの間にか鑑賞の時間とかタイミングとかも決まっていく。それも変な話なんですけど。
──なるほど、では今回はあくまでも楽しいものを見せると。
山賀 そうです。逆に言うと、僕自身があまり芸術志向じゃないので、楽しくないんだったらやる気は起きないんです。何か格式があるとか崇高なものっていうんだったら、あまり近づかないですね。だからアニメをやっているんです。
(取材・文=有田シュン)
●ガイナックス オペラ with コンドルズ『ラインの黄金』
ワーグナー作曲「ニーベルングの指輪」序夜
【日程】2012年11月 23日(金)14時~/24日(土)13時~、18時~/25日(日)14時~
【チケット】全席指定 S席 12,000円/ A席 10,000円/ B席 6,000円/ C席 4,000円
【ご予約・お問い合わせ】東京国際芸術協会 03-3809-9712(平日9:30~18:30)
<http://tiaa-jp.com>
【会場】オペラ劇場あらかわバイロイト「サンパール荒川大ホール」(荒川区荒川1-1-1)
【ガイナックス・オペラ公式サイト】<http://www.gainax.co.jp/opera>
【Twitter】@GAINAX_OPERA
【主催】一般社団法人 東京国際芸術協会
【共催】荒川区 公益財団法人 荒川区芸術文化振興財団
【協賛】株式会社マエストロ
【協力】東京音楽学院
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事