あのガイナックスがオペラを演出!? アニメ界の巨匠・山賀博之が挑むワーグナー
山賀 というよりも、もっとアニメ屋的な下卑た商売根性というか(笑)。どうもっていったらどういう一言が引き出せるのかというのをまず作って、そこからマーケティングを考えていく。僕の仕事は、いつもこうですよ。
■舞台の演出とアニメの演出は同じ
──今回は、コンテンポラリーダンス・カンパニー「コンドルズ」ともコラボレーションされますが、オペラというクラシカルな演劇と、コンテンポラリーダンスという現代の舞踊のすり合わせ具合はいかがですか?
山賀 コンテンポラリーダンス自体、即興性が強いものなので、もちろん設計図は作るけど、何回も稽古をして、動線を確認して……というやり方ではないんですよ。“恐らく彼らはこう絡み合うんだろうな”と、予測して作っています。ここはアニメ演出的なものがあります。アニメ演出って、ほかの舞台や実写映画と根本的に違って、予知能力に近いものが必要なんですよ。音を作る時は絵を知らないで作っているし、絵は音を知らないで作っている。背景を描いている人はその前でキャラがどう動くか知らないし、キャラを描いている人は自分が担当するカット以外は知らないで描いているわけですから。
だから今回、舞台の演出をやってみていいなと思うのは、全部目の前で展開することですね。「ヴォータン(編註:劇中に登場する神々の長)が前に出ない!」とか、リアルタイムで修正を言えるわけですから。アニメで前に出ないという修正を実現しようとすると、「ヴォータンが出ているカットはいくつ?」と制作に聞いて、「そのカットは今どこ? 韓国? 今からカット送れるかな?」とか、そんな感じですから。だから根本的な部分では、アニメ演出と舞台演出の間に何も変わりはないですね」
──ちなみに演者さんは、山賀さんのプランを聞いて、どんな反応でしたか?
山賀 確かに最初は皆さん、戦々恐々とされている空気はありましたね。ただ、通し稽古に入るあたりで、『これでいいのかな』っていう感じで打ち解けてきた雰囲気はあります。ただ正直言って、不安ももちろんありますよ。新しいことをやる以上、リスクもかなりあるのですが、その一方でワクワクもありつつというのは、アニメを作っていても同じ。いつものことです。
■ガイナックスの原点はワーグナー
──『ニーベルングの指環』は今回上演される序夜『ラインの黄金』の後に第3夜まで続きますが、今後も演出を続けていく予定はありますか?
山賀 分からないです。というのも、今回はあくまで『あらかわバイロイト』にガイナックスが参加するとちょっと毛色が変わりますよ、ということでやっていますので。でもこのスクリーンは、いろんなイベントに使えそうですよね。それと今回演出をやってみて、オペラというよりもワーグナーそのものに愛着がわきました。
──山賀さんは、もともとワーグナーは聴いていたんですか?
山賀 いや。でも不思議と縁があって、ガイナックスの最初の作品『王立宇宙軍~オネアミスの翼』のパイロット映像に使った音楽は、ワーグナーの『マイスタージンガー』の序曲でした。ガイナックスの最初の映像作品の音楽は、ワーグナーだったんです。だから原点に返ってきたという感じはあります。
──ガイナックス作品というと、アニメにオペラやクラシック音楽を取り入れることが多いのですが、ガイナックスの作風として、そういったものを志向している部分はあるのでしょうか?
山賀 そういうものを志向している部分はあると思います。だから田辺さんも、直感的にそこを見抜いたんでしょうね。親和性はすごくあると思うし、僕自身もなんの抵抗感もなく仕事ができている。きっと周りは驚くと思うんだけど、自分の中では驚きはないんですよね。アニメを作る時も、いつもと同じアニメを作りたいという感覚はあまりなくて、毎回何か違うものを作ろうという意識があるんですが、その“ちょっと違うもの”の領域の中にオペラもあるのかも。
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