この“明るいヘンタイ”っぷりがいいんじゃない!? 会田誠のアートなエロス『駄作の中にだけ俺がいる』
#映画 #パンドラ映画館
「よかちん」を会田は現代に蘇らせる。
『駄作の中に−』のカメラは、会田誠の家族も被写体として登場させる。会田の妻・岡田裕子も現代美術家であり、夫に頼まれてヌードモデルを引き受けることもある。才能溢れる夫を深く愛していることが、その表情から伝わってくる。自由で大らかな雰囲気の漂う2人の自宅には、若い芸術家たちが度々食事がてら遊びにくる(旬のアーティスト・チンポムは、会田家にたむろっていた若者たちによるユニット)。でも、自由すぎる両親のもとに生まれた子どもは、ある意味で大変だ。2人には小学生になる息子・寅次郎くんがいる。カメラの前では明るく元気ハツラツな寅次郎くんだが、あまりに自由すぎる両親を見て育ったせいか、父親の性格を濃く受け継いだせいか、現代の学校関係者が神経質なのか、寅次郎くんは同世代の子たちと一緒に過ごすがチト難儀らしい。母親である岡田裕子は学校から呼び出されて頭を悩めるが、父親である会田誠は展覧会までの期日が迫っており自宅に帰ることすらおぼつかない。その代わり、「滝の絵」や「灰色の山」といった作品をアトリエで仕上げる様子を、そのまま息子に見せる。寅次郎くんは学校の授業で習うことよりも、もっとすごいことを父親の背中から感じ取っているようだ。寅次郎くんが将来、どのような道に進むのか楽しみでもある。
2010年5月、会田誠が芸術活動の拠点としているミヅマアートギャラリーで個展が開催され、このドキュメンタリー映画もクライマックスを迎える。まだ未完成ながら、会田が芸術家生命を賭けた超大作「灰色の山」が一般客に初披露される。個展を直前にして会田は、もうひとつビデオアートを製作することを思い付く。題して「よかまん」。会田が通った東京芸術大学には代々にわたって「よかちん」という裸芸が受け継がれていたそうだ。新入生歓迎コンパで、すっぱだかになった先輩が股間に一升瓶を挟んで「はぁ~、よかちんちん♪」と歌い踊るもの。芸術論やデッサン力よりも何よりも、芸術家たるものはバカであれ、という尊い教えが込められた伝統芸だ。ところが、近年の美大は女子学生が圧倒的に増え、昔ながらのマッチョで下品でバカ丸出しな裸芸はすっかり廃れてしまった。そこで会田は提唱する。女性が社会進出を果たした現代社会にこそ相応しい、新しいアートパフォーマンスを。ビデオの中では、裸の女性が股間にザルを当てて歌い踊る。「はぁ~、よかまんまん♪」と。この「よかまん」を見ただけでも『駄作の中に−』は素晴らしく価値のあるドキュメンタリーだと思える。「よかちん」と「よかまん」が同時に存在することによって、この世界は誕生した。会田誠は自分のリビドーに常に正直な人だ。
(文=長野辰次)
『駄作の中にだけ俺がいる』
監督/渡辺正悟 撮影/大石英男 ナレーション/岡田裕子
配給ブラウニー 11月10日より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開中
(c)ザ・ファクトリー <http://www.aida-artmovie.com>
●「会田誠展:天才でごめんなさい」
2012年11月17日(土)~2013年3月31日@森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)作品表現の過激さから、これまで実現しなかった会田誠の世界初となる大規模個展。公立の美術館での展示がNGとなるキワドイ作品を集めた「18禁部屋」が設けられることでも話題だ。
<http://www.mori.art.museum/contents/aidamakoto>
『駄作の中にだけ俺がいる』×「会田誠展:天才でごめんなさい」半券相互割引キャンペーン実施中! 映画、展覧会の半券もしくはチケット(未使用も可)をそれぞれの窓口で提示すると当日料金が割引に。
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[第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!”神の子”の復活を追う『マラドーナ』
[第44回] 暴走する”システム”が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』
[第43回]“人は二度死ぬ”という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは?
[第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』
[第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』
[第40回]“涅槃の境地”のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』
[第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』
[第38回]海より深い”ドメスティック・ラブ”ポン・ジュノ監督『母なる証明』
[第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』
[第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』
[第35回]“負け組人生”から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』
[第34回]2兆円ペット産業の”開かずの間”に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』
[第33回]“女神降臨”ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』
[第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』
[第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』
[第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇
[第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』
[第28回]“おねマス”のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』
[第27回]究極料理を超えた”極地料理”に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』
[第26回]ハチは”失われた少年時代”のアイコン ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊!
[第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』
[第24回]悪意と善意が反転する”仮想空間”細田守監督『サマーウォーズ』
[第23回]沖縄に”精霊が暮らす楽園”があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』
[第22回]“最強のライブバンド”の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』
[第21回]身長15mの”巨大娘”に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』
[第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』
[第19回]ケイト姐さんが”DTハンター”に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』
[第18回]1万枚の段ボールで建てた”夢の砦”男のロマンここにあり『築城せよ!』
[第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』
[第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡”脱力”劇場『インスタント沼』
[第15回]“裁判員制度”が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』
[第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』
[第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』
[第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』
[第11回]美人女優は”下ネタ”でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』
[第10回]ジャッキー・チェンの”暗黒面”? 中国で上映禁止『新宿インシデント』
[第9回]胸の谷間に”桃源郷”を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』
[第8回]“都市伝説”は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』
[第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』
[第6回]派遣の”叫び”がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』
[第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が”倒錯美”の世界へ
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[第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は……
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[第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学
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