“絶対的価値”を求める男たちの翔んでもロマン! 井筒監督の犯罪サスペンス『黄金を抱いて翔べ』
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借金を抱えたエンジニア・野田役。命の危険を感じ、ビビってしまう。
井筒作品と思えないほど、豪華キャストがそろった本作。実はキャスティングもワケあり。シネカノンの大ヒット作『フラガール』(06)は企画当初は『パッチギ!』を当てた井筒監督が撮る予定だった。だが、炭坑会社の社長を中心にした美談にまとめるのがイヤで井筒監督は降りてしまい、李相日監督に急遽バトンが渡され、少女たちの爽やかな成長ものへと軌道修正されて成功を収めた。井筒監督版の主人公である若手社員役に考えられていたのが妻夫木聡だった。また、井筒監督はシネカノンで江戸時代に起きた実在の殺傷事件『吉原百人斬り』の映画化を企画していたが、これも頓挫。『吉原百人斬り』の主演に予定されていたのが浅野忠信だった。テレビ番組では傍若無人に振る舞っている井筒監督だが、借りは返すという義理堅い一面を持ち合わせている。その一方、『黄金を抱いて翔べ』では派手な爆破シーンが用意されているが、これは井筒監督が自分の内側に溜め込んできたものを作品の中で思いっきり爆発させているのだろう。
高村薫作品は『マークスの山』に続いて『レディ・ジョーカー』(04)も映画化されたが、膨大な情報量が詰め込まれた高村作品を約2時間という映画の尺でまとめ上げるのは至難の技だ。本作も北朝鮮の元特殊工作員・モモをめぐって、左翼の活動家(田口トモロヲ)、北朝鮮と公安の二重スパイ(鶴見辰吾)らが暗躍する中盤までは目まぐるしく、意識を集中していないと物語から置いてけぼりをくらう。だが、その分だけクライマックスの銀行襲撃シーンが異様なまでに盛り上がる。あれだけ綿密に計画を練り、完璧と思われていた北川たちの銀行襲撃計画だが、直前になって欠員が生じるわ、北川の片腕である幸田は負傷するわ、ベストコンディションからは程遠い状態で襲撃に挑まなくてはならなくなる。永遠の輝きを放つ金塊に比べ、男たちが抱いていた夢の何とモロいことか。
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