フランス映画界の鬼っ子パスカル・ロジェ監督が描く、本当の“悪魔”『トールマン』の正体とは……!?
#映画 #インタビュー
『ローズ・イン・タイドランド』(05)の美少女ジョデル・フェルランドが
キーパーソン役で出演。
■二者択一の世界しかないのか? 第3の道を模索するロジェ監督
12月2日(日)で閉館を迎える、シアターN渋谷の近藤順也支配人にもコメントをもらった。「現在、世界中で生きのいいホラー映画を作っている監督は、次々にハリウッドへ引き抜かれています。パスカル・ロジェ監督も『マーターズ』で衝撃を与え、ご多分に漏れずハリウッドからお呼びがかかりました。しかし、それを振り払い、インディペンデントのスタンスで作られたのが『トールマン』。結果として本作は大ヒットを記録し、ロジェ監督は再び注目の的となっています。自分が描きたいもの、作りたいもののために妥協しない、ブレないこのインディペンデントスピリッツを、とくとご確認ください」(近藤支配人)。シネコンではお目にかかれないハードコアな作品を上映してきたシアターN渋谷が、クロージング作品に『トールマン』を選んだ理由が感じられるではないか。では、インタビュー後半。ロジェ監督は『マーターズ』のヒット後、ハリウッドに振り回されたここ数年間についてぶちまけた。
──『テキサス・チェーンソー』(03)のハリウッド女優ジェシカ・ビールが、『トールマン』では大熱演しています。フランス、カナダ、米国による合作映画を撮ることの楽しさ、難しさの両面を教えてください
ロジェ ノンノン! 米国資本は入ってないよ。『トールマン』はカナダとフランスの合作映画なんだ。米国、カナダ、フランスとクレジットされているのは、ライセンス上の関係のため。実際には、米国側は製作費を1ドルも払ってないよ。『マーターズ』より少し多いけど、『トールマン』の製作費はハリウッド映画の小品よりも、ずいぶん抑えた額なんだ(苦笑)。でも、そのおかげでボクは自由に撮ることができたから、よかったと思っている。これがもしハリウッド映画だったら、ボクは単なる雇われの演出家に過ぎず、出資者の言いなりになっているか、すぐにクビを切られていただろうね。物語も、こんな結末にはならなかったはず。幸いヨーロッパでは監督が作品をコントロールすることができ、もし出資者が作品を乗っ取ろうとすれば、裁判で訴えることも可能なんだ。実際に『トールマン』の企画は最初にワーナーやパラマウントといったハリウッドメジャーに持ち込んだけれど、「導入部分は素晴らしい。いかにもホラー映画っぽくていい。ただし、後半は全部変えてもらうよ」と言われた(苦笑)。もし、その通りに『トールマン』を撮っていたら、ボクが映画を作る意味がまったくなくなっていたと思うよ。
──『マーターズ』がヒットした直後、『ヘル・レイザー』(87)のハリウッドリメイク版をロジェ監督が撮るというプランもあったはずですが、ハリウッド側の対応がイヤになって降りたわけですか?
ロジェ 『ヘル・レイザー』! ボクはあの作品が大好きだったし、原作者のクライブ・バーカーの大ファンなんだ! バーガー自身がゲイで、『ヘル・レイザー』にはハードなSM的要素やゲイ的描写も盛り込まれているわけだよね。ボクに『ヘル・レイザー』のリメイク企画が持ち掛けられたときは、すごくうれしかったし、光栄に思ったよ。それで4カ月かけて脚本を練り上げて、イギリスにいるバーガーの自宅にまで脚本を見せに行ったんだ。バーカーはボクの脚本を読んでくれて「キミはボクの作品のことを、すごく理解してくれている」と喜んでくれたんだ。でも、その後で、こうも言ったんだ。「だけど、キミの脚本は、ハリウッドでは採用されないだろうね」と。それで実際に『ヘル・レイザー』の映画化権を持っているハリウッドのプロデューサーの元へボクの脚本を持っていったら、反応はこうだったよ。「ワォ! この脚本は素晴らしいよ、ロジェくん。でも全部書き直してくれるかな?」とね。
──ハリウッド、ひでぇなぁ(苦笑)。
ロジェ SMダメ、ボンデージもダメ、ゲイもダメ。そーゆーのは全部ダメだって言うんだよ。それじゃ、もうボクの好きな『ヘル・レイザー』じゃないよ。『ヘル・レイザー』じゃないものを、『ヘル・レイザー』のリメイクだと称して作るのもイヤだし、バーカーやファンを裏切るのもイヤだった。それで『ヘル・レイザー』のリメイク企画からボクは降りたというわけなんだ。今のハリウッドでは、本当の意味での『ヘル・レイザー』は作れないと思うよ。
──今回の『トールマン』を上映するシアターNは、12月2日で閉館。『トールマン』がクロージング作品となります。
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