フランス映画界の鬼っ子パスカル・ロジェ監督が描く、本当の“悪魔”『トールマン』の正体とは……!?
#映画 #インタビュー
ロジェ監督はこのポーズ。「シネコンに街の小さな映画館が負けたと思うと
悲しいよね」と話す。
──そのかいあって『マーターズ』は世界中で注目を浴び、ロジェ監督には新作のオファーが殺到。フランス映画祭2009で来日した際には、「自分が感じる社会の閉塞感、自分自身の息苦しさを映画にした」と話していましたが、『マーターズ』がヒットしたことで、ロジェ監督を取り巻く環境は変わりました?
ロジェ 確かに、そんな話をしたねぇ。『マーターズ』を撮る直前は、マジで精神状態はサイアクだったんだ。自分が思うような映画を、なかなか撮ることができずにいたんだ。幸いにも『マーターズ』が完成して、運良くヒットしたことで、ボクの精神状態はすごく良くなったよ(笑)。実は『マーターズ』を撮り始めるときは、「もう、これがボクの最後の作品になる」という覚悟だったんだ。あれだけ振り切った内容の映画を撮ることは、自殺行為でもあったんだ。これが最後だ、自分のすべてを作品にぶつけよう、と。自分の中にあった憎しみのエネルギーを全部注ぎ込むことで完成した映画でもあったんだ。そんなふうにして作った映画だから、観客は誰も振り向かないかもしれないと考えていた。他の仕事を探さなくちゃとね(苦笑)。でも、世の中は不思議なもので、自分が憎しみを込めて作った『マーターズ』が世界中で「すごい映画だ」と噂になったんだ(笑)。おかげで、『トールマン』は『マーターズ』に比べるとずいぶん予算をアップして撮ることができたよ。自分自身に真っすぐに向き合えるようになったしね。ボクが思うに、どんな芸術作品も、芸術家自身が抱えている影の部分を昇華させてくれるものじゃないかな。そういう意味では、『マーターズ』はボクを変えてくれた大事な作品だといえるね。
──新作『トールマン』は子どもたちが次々と失踪し、トールマンという謎の誘拐魔の存在が噂される……というダークファンタジー的な始まり。ところが中盤以降は予想外の展開を見せ、社会派サスペンスへとモードチェンジしていく斬新な構成。ファンタジーとは異なる、現実社会と地続き的な怖さがありますね。
ロジェ その通り。リアルな世界を描こうというのが、今回の企画の趣旨だったんだ。社会のダメな部分、影の部分をリアルに描こうとね。そこで、まぁ、やっぱりボクはホラー映画のジャンルで売れたわけだから、ボクの得意な手法で物語の導入部分を描いたわけさ。でも、物語としての着地点は、ホラーとはまったく異なる仕掛けを用意した。その仕掛けを楽しんでもらえると、うれしいよ。
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