我が家に“食人族”がやって来た! 奇才ジャック・ケッチャムの異形世界『ザ・ウーマン』
#映画 #パンドラ映画館
最後まで責任持って育てられますか?
原作小説が紀伊国屋新宿本店で絶賛発売中の『ザ・ウーマン』は、文明批評の強い内容となっている。食人族最後の生き残りである“その女”を弁護士のクリスは地下室で飼い馴らして、文明人に改良しようとする。まるで『マイ・フェア・レディ』(64)のヒギンス博士のように。自分の中指を食いちぎられたことで、余計にクリスのサディステックな嗜好性に火が点く。“その女”を殴りつけて傷だらけにした上で、高圧洗浄機で全身を洗い流す。それまで文明人の言語を話すことのなかった“その女”がたまらず「プリーズ……」という言葉を発すると、野蛮人を屈服させたことにクリスは無上の喜びを覚える。文明社会の番人である法律家と野生の世界で自由に生きてきた“その女”という対照的なキャラクターが描かれるわけだが、クリスは自分が家族をきっちり支配することが、家族にとっての幸せでもあると考える暴力男。食人族は自分たちが食べていくために獲物を狩るが、クリスは自分の歪んだ欲情を満たすために家族に平気で暴力を振るう。はたして一体、どっちが文明人でどっちが野蛮人なのか。「人間もしょせん動物に過ぎない」というケッチャム節が全編に朗々と流れる。
食人族と弁護士一家との奇妙な共同生活も、やがて終焉のときを迎える。最近ずっと塞ぎ込んでいるペグの様子を心配した担任のレイトン先生がサプライズでクリス家を家庭訪問したことから、血と暴力と内臓が飛び出すクライマックスの幕が開く。弁護士一家には食人族以外にもまだまだ秘密があったという驚きの大ドンデン返し。このクライマックスは、伊藤俊也監督の『犬神の祟り』(77)級の衝撃ですよ。
『隣の家の少女』に続いて、ジャック・ケッチャム作品『ザ・ウーマン』を上映するのはシアターN渋谷。これまで『ホテル・ルワンダ』(04)、『デビルズ・リジェクト マーダー・ライド・ショー2』(05)、『ホステル』(05)、『マーターズ』(07)、『片腕マシンガール』(07)、『ベルフラワー』(11)といった埋もれがちな問題作を積極的に取り上げてきた良心的な映画館だ。ミニシアター冬の時代にあって孤軍奮闘を続けてきたが、残念なことに12月2日(日)での閉館が決まった。すっかりこぎれいになった都会の片隅で、シアターNは7年間にわたって人間の心の闇に蠢くものをスクリーンに映し出してきた。『ザ・ウーマン』はそんなシアターNのクライマックスを飾るのに相応しい、とってもワイルドでバッドテイストさを極めた作品だと思う。去勢されたシネコン映画には興味が持てない方は、刺激に溢れたシアターNまでぜひ足を運んでみてほしい。
(文=長野辰次)
『ザ・ウーマン』
原作・脚本/ジャック・ケッチャム&ラッキー・マッキー 監督/ラッキー・マッキー 出演/ポリヤンナ・マッキントッシュ、ショーン・ブリッジャーズ、アンジェラ・ベティス、ローレン・アッシュリー・カーター、ザック・ランド 配給/エクリプス 10月20日(土)よりシアターNにてモーニング&レイトショー公開
<http://the-woman-movie.com>
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