我が家に“食人族”がやって来た! 奇才ジャック・ケッチャムの異形世界『ザ・ウーマン』
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ジャック・ケッチャムのデビュー作『オフシーズン』とその続編『襲撃者の夜』と連なる“食人シリーズ”の完結編となる本作だが、原作段階から関わったのがラッキー・マッキー監督。グロくて泣けるホラー映画『MAY メイ』(02)で監督デビューを果たしたこの人、ケッチャムの犯罪小説『黒い夏』の映画化『ザ・ロスト 失われた黒い夏』(05)の際にもプロデューサーとして参加している。今回の『ザ・ウーマン』では原作を共作した上に、脚本執筆にもケッチャムを引っぱり込む熱の入れよう。ケッチャムにもう首ったけ状態。2009年に映画化された『襲撃者の夜』(日本ではDVDスルー)はひどく安っぽいB級ホラー仕立てで、『隣の家の少女』(07)は虐待されるヒロインが残念なことに美少女ではなかったりと、ケッチャム作品の映像化は『ザ・ロスト』以外は満足できる作品に日本ではお目にかかれなかったが、ケッチャム大好き人間のラッキー・マッキー監督の手によって、『ザ・ウーマン』はこれまでになくすげーポップでグロくてブラックな笑いに満ちた味わい深い映画に仕上がっている。
ケッチャム作品は代表作『隣の家の少女』が1960年代にインディアナ州で起きた少女監禁陵辱事件を題材しているように、『オフシーズン』から始まる“食人シリーズ”も実話をベースにしたもの。15〜16世紀のスコットランドに実在した食人ファミリー、ソニー・ビーン一家から着想を得ている。ソニー・ビーンは妻と海岸沿いの洞窟で暮らし、近くを通りかかった人を襲っては食べ、残った肉は塩漬けにして洞窟内に貯蔵し、近親相姦で一族を50人近くに増やしたと言われている。忌まわしき黒神話の住人だ。誰しも顔をそむけたくなる事件を題材に、ケッチャムは人間に隠された野獣性をあぶり出していく。ちなみに食人シリーズ第2作『襲撃者の夜』と完結編にあたる『ザ・ウーマン』は映画化されたものの、肝心のシリーズ第1作『オフシーズン』の映画化はポシャったまま。そーゆーぶっ壊れた感じも、またケッチャムらしい。スティーヴン・キングの小説がハリウッドの人気監督&人気キャストの手で続々と映画化されたのとは、あまりにも対称的ですな。
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