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日刊サイゾー トップ > カルチャー > 本・マンガ  > 規制国家ニッポンの根っこに迫る
風営法によるクラブの摘発、違法ダウンロード刑罰化、脱法レバ刺し……

“規制国家ニッポン”の根っこを見据える『踊ってはいけない国、日本』

『踊ってはいけない国』は、その名の通り、昨年の大阪・アメリカ村のクラブ一斉摘発を発端とした「風営法によるクラブシーンの取り締まり激化」を中核のテーマに緊急出版された一冊だ。音楽ライターの磯部涼氏が編著を務め、m-floの☆Taku、津田大介、坂口恭平、開沼博、松沢呉一、宮台真司×モーリー・ロバートソン(対談)など、幅広いフィールドの論者が寄稿し、登場している。なので、実際のところ、クラブシーンと風営法の問題だけを取り扱った一冊というよりも、それが象徴する「規制が過剰に拡大する社会で、今、何が起こっているのか」ということを俯瞰するような本になっている。

 そのキーワードとなるのが「グレーゾーン」。実は、現在営業しているほとんどのクラブは、いわば脱法行為によって成立している。85年に改正された風営法は「深夜1時以降にダンスフロアで客を踊らせること」を規制している。だから、ほとんどの店は「踊らせる」のではなく「音楽を聴かせる」という体裁で営業許可を取っていて、警察も半ばそれを黙認してきたというのが実情だ。しかし、今になって「無許可で客を踊らせている」と、そのことを理由に大々的に摘発されるようになった。つまり、かつてはグレーゾーンの中で許されてきたものが、もはや許されなくなってきているというのが、ことの本質なのである。

 そして、そういう「グレーゾーンの消滅」はクラブシーンや音楽だけの問題ではない。繁華街の浄化作戦、違法ダウンロード刑罰化、脱法レバ刺しまで、さまざまな場面で立ち現れている。それが本書の主張の骨子だ。

 本書に登場する論者たちによって繰り返し指摘されているのは、そういった規制は決して「上から押し付けられる」ものではない、ということ。規制への欲望は、むしろ宮台真司が「新市民」と呼ぶような、一人一人の市民が持っている。彼らの持つ「何か起きたら怖いから行政が責任とってくれよ」というクレーマー的な不安や依存の集積が、その欲望を駆動している。だから、取り締まりに遭ったクラブの客がただ「警察の横暴だ!」と叫んでみたところで、問題は何ら解決しない。

 では、どうしたらいいのか? 本書に挙げられている対処策は、実のところは、てんでバラバラだ。業界団体を作ってロビーイングをし、風営法の改正を求めて政治家に訴えるべきだと、編著者の磯部涼氏は主張する。実際、「Let’s Dance」と銘打った法改正のための署名運動もスタートしている。クラブシーンを観光地化してマネタイズできる場所にするべきだという☆Taku氏の提言もある。リアリストの戦略も、ビジネスの提案もある。そして、そもそも風営法自体が憲法違反であるとする佐々木中氏や、「金本位制ホームパーティー」を夢想する坂口恭平氏のような、ラディカルな主張もある。

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