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田部康喜「会話のネタがつくれちゃう!? 新メディア時評」第2回

iPhoneのデザインは、ソニーのケータイをマネしていた?

 サイゾー新ニュースサイト「Business Journal」の中から、ユーザーの反響の大きかった記事をピックアップしてお届けしちゃいます!

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iPhoneのデザインは、ソニーのケータイをマネしていた? – Business Journal(9月28日)

『スティーブ・ジョブス』
(講談社/ウォルター・アイザックソン著)

  朝日新聞記者、ソフトバンク広報室長を経て、現在はシンクタンク・麻布調査研究機構代表理事を務める田部康喜氏が、気になる書籍やメディア報道の紹介を通じて、ホットなあの話題の真相に迫る! 

 東京・銀座のアップルストアに、開店前から並ぶ長い人の列ができ、銀座通りに沿ってほど近いソフトバンクモバイルの旗艦店にも同様の光景が。それを、報道陣のカメラの放列が取り囲む。

「iPhone 狂騒曲」は、再びメディアによって奏でられた。

 アップルは9月21日、最新機種である「iPhone 5」を日本で売り出した。「iPhone 3G」が登場したのは、2008年7月である。そして、10年6月の「4」、11年10月の「4S」。さらに、「5」に至ってもなお、その人気は衰えずに加熱している。

 アメリカの調査会社のIDCによると、12年上期の世界のスマートフォンのシェアは、サムスンが31%、iPhoneが21%、ノキアが7%である。ちなみに、タブレットでは、アップルのiPadが71%、サムスン9%である。

 他の調査会社の推定によると、スマートフォン市場で生み出される利益のうち、アップルがその70%以上を占め、サムスンは26%にすぎないという。ましてや他のメーカーはほとんど利益を出していない。

 アップルの一人勝ちである。

 日本のメディアの「iPhone 狂騒曲」も、投入された機種の数を模していうなら、アップルの戦略やその新製品の機能の分析をする主旋律から、日本のメーカーのふがいなさを嘆く哀調を帯びた旋律を奏で始めたようにみえる。

 スマートフォンの大きな潮流を、日本メーカーは見逃したという、批判の強い調子も
加わって、「失われた20年」の記憶が蘇り、読者にはいささか耐えがたいのではないか。

「今日を記録する」という意味である「ジャーナリズム」は、日々の出来事を追いながら、その一方で歴史的な潮流をみなければならない。日本のメディアは、「ウチ」を攻撃するに際して「ソト」をもってする傾向が強い。それは、日本が過去の歴史のなかで、「ソト」からの衝撃によって、「ウチ」の変化を遂げてきたことと無縁ではない。黒船の来襲によって、近代化を成し遂げた列島の現実である。

 しかし、日本のメディアのそうした視点は、時として動揺をきたして対応ができない事態が発生する。

アップルとサムスンの訴訟で表面化した、衝撃の証拠

 例えば、アップルとサムスンのスマートフォンをめぐる訴訟合戦のなかで、アップルのオリジナリティを否定する証拠として、サムスンが提出した衝撃の証拠である。

 サムスンによれば、

「iPhoneのデザインの発想は、ソニーが極力ボタンを少なくした携帯電話の開発を参考にしている」

という記事が発端だった、とする。アップルはこれをきっかけとして、社内の日本人デザイナーに対して「ソニーが(iPhoneを)つくるとしたら、どのようなデザインになるか」と、試作させたとしている。しかも、その試作機にソニーのロゴを入れていた、という。

 日本のメディアは、この事実をどのように「消化」したであろうか?

「日本メーカーはその当時はモデルにされるほどに優れていたが、今ではすっかりその勢いを失ってしまった」

 あるいは逆に、

「日本メーカーも捨てたものではない」

という解説を行った。

 それは、アップルもソニーもまた、「ソト」と「ウチ」という思考の国境線などない、国際企業であることを忘れたかのようであった。

ジョブズが抱いた、日本に対する憧れ

 ピューリツァー賞受賞者であり、ジャーナリストとして名高いウォルター・アイザックソンの『スティーブ・ジョブズ』(講談社/訳:井口耕二)は、日本でもベストセラーになった。

 ジョブズが死を覚悟して、アイザックソンを筆者に選んで、幾度となくインタビューに応じ、しかも「自分の悪いところも書いてもらいたい」といっさい原稿に口をはさまなかったという。

「ソト」をもって「ウチ」を批判する、日本のメディアの宿痾(しゅくあ・治らない病)を考えるうえで、よい教科書である。

 本書が綴る、ジョブズの東洋ことに日本に対する憧れと傾倒ぶりは、その宿命とともに胸を打つ。

 ジョブズは、青年のときにインドに憧れて放浪し、舞い戻ったカリフォルニアで日本の禅僧に出会い、禅に取り組んだ。京都はジョブズの愛した町である。死を悟ったジョブズが、家族と最後の旅行先として選んだ町でもある(彼の体調が悪化して、家族はその実現が一時は困難であると考えていた)。

シンプルなデザインの源とは?

 ジョブズが起業したばかりのころ、近所にあったソニーショップに行っては、新製品のカタログを繰り返し見たエピソードも書かれている。

 アップル復活の大きなきっかけとなったiPodの記録媒体として、最小のものを捜し求めていたジョブズに朗報をもたらしたのは、日本メーカーであった。そのときの興奮ぶりもまた、筆者のアイザックソンはていねいに描いている。

 アップルの製品を貫く、ジョブズのムダをぎりぎりまで省いたシンプルなデザインは、日本文明の簡素をもって尊しとする精神に富んでいるのではないか?

 実際にジョブズは豪邸に住まず、室内も簡素なものである。どんな家具を入れるかに迷い続けて、ほとんどがらんどうの部屋で撮影された自画像を、ジョブズは愛した。

 菜食主義を貫き、それががんの手術後の回復を妨げたのみならず、自然治癒を優先したために、最後の手術の時期が遅れることになったのではないか、とアイザックソンは記している。ひょっとすると、ジョブズはいまも生きていた可能性があるとも読める。

 ある企業について書くならば、その社史と、創業者の伝記を読まなければならないと考える。そこには、国境の「ウチ」と「ソト」を超えた思想がみえてくる。それは、アップルを筆頭とする欧米の企業に限らない。日本の企業もしかりである。日本の経済ジャーナリズムの成熟を期待したい。(敬称略)
(文=田部康喜)

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最終更新:2017/07/26 14:59
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