月面ナチスが地球侵略!? 『アイアン・スカイ』はファンからの支援金で完成したネオトンデモ映画
#映画 #インタビュー
■映画への投資ほど危険なものはなし
──日本でも複数の作品を対象にした映画ファンドがありましたが、失敗に終わっています。『アイアン・スカイ』が成功した理由はどこにあったんでしょうか?
ティモ ボクたちが成功した理由のひとつには、数年前からネットコミュニティーと密接な関係を築くことができていたことがあると思うよ。ボクの監督デビュー作『スターレック 皇帝の侵略』(05)はネット上で800万回ダウンロードされたんだ。そういうファンベースがあったことが大きいだろうね。ボクらが次にどんな作品を作るのか、ファンが期待してくれる信頼関係があったんだ。ファンドを募る際に、もちろんボクらはお金の使い道に関しては透明性を心掛けたし、「映画への投資ほど危険なものはありません」と事前にきちんと説明したよ。「この映画は確実に完成するかどうかも分かりません。お金を損したくない人は投資しないほうがいいですよ」とね。「それでも、“助けてやろう”と思う方は是非お願いします」と本当に正直に話したんだ。
満載。月面ナチス軍と地球防衛軍が戦火を
交える!
──お金だけでなく、ティモ監督が作った『アイアン・スカイ』を観たいというファンからの期待や熱気も集まったわけですね。
ティモ そう! そこがいちばん大事なところだったと思うな。お金を集めるだけなら、なんとかなるもの。でも人が持っている熱意は、集めようと思っても集められるものじゃないからね。『アイアン・スカイ』が特別だったのは、そこだったんだ。全体の出資者の中には投資目的の人もいたけど、ボクたちが正直に説明をしたこともあり、「この映画なら大損をすることはないな」と感じて出資してくれた部分もあったみたいだね。
──映画のクライマックスは、月面ナチス軍の誇る宇宙飛行船ヒンデンブルグ号と米軍の最新宇宙戦艦ジョージ・W・ブッシュ号の激突。ファンからの100万ユーロがなければ、あんなに迫力あるシーンは撮れなかったかも?
ティモ そうだね、戦争シーンだけに限らず、全体的にトーンダウンしたものになってしまったんじゃないかな。というか、あの100万ユーロがなければ、この映画は完成していなかったわけだし。日本から出資してくれたファンも含めて、世界中の出資者に大感謝だよ。
──では最後の質問です。日刊サイゾーは“タブー”が大好きなニュースサイトなんですが、フィンランドにもタブーはいろいろあるんですか?
ティモ フィンランドにも、タブーはたくさんあるよ。まず、フィンランドはロシアに対してビミョーな関係にあるんだ。それに、ノキアといえばフィンランドを代表する大企業だけど、最近は経営が厳しくなっている。でも、そういったことは公然とは口にしにくいんだ。あと、フィンランド人は第二次世界大戦の話もしたがらないね(※フィンランドは第二次大戦時は枢軸国側だった)。フィンランド人にとってのいちばんタブーと言えば、1918年に起きた内戦。100年も昔のことだけど、同じフィンランド人同士が戦ったことから、今でもフィンランド人にとって大きな心の傷になっているんだ。これは他の国にも共通することだけど、アルコール依存症や経済不況から来る失業問題も根深いものがあるね。フィンランド映画も少しずつ変わってきて、今まであまり扱わなかったような題材にも取り組むようになってきているところだよ。
──フィンランドもいろいろ大変なんだ……。ブラックなエンディングは『アイアン・スカイ』だけにしたいものですね。
ティモ ほんと、そう願うよ。『アイアン・スカイ』はボクが考えうるサイテーのシナリオになっているから、世界はそこまでバカじゃないと信じたいね(笑)。
(取材・文=長野辰次)
『アイアン・スカイ』
監督/ティモ・ヴオレンソラ 音楽/ライバッハ 出演/ユリア・ディーツェ、ゲッツ・オットー、クリストファー・カービー、ウド・キア 字幕翻訳/高橋ヨシキ 字幕監修/町山智浩 PG12 配給/プレシディオ 9月28日(金)よりTOHOシネマズ六本木ほか全国公開
<http://gacchi.jp/movies/iron-sky/>
(C)2012 Blind Spot Pictures, 27 Film Productions, New Holland Pictures. ALL RIGHTS RESERVED.
●ティモ・ヴオレンソラ監督
1979年フィンランド出身。SFコメディ映画『スターレック 皇帝の侵略』(05)を7年がかりで完成させ、監督デビューを果たす。トレッキーファンを熱狂させ、インターネット上でカルト的人気を呼んだ。『アイアン・スカイ』はカンヌ映画祭へ出品しようとしたが、惜しくも上映ならず。しかし、2012年2月にドイツのベルリン映画祭でプレミア上映したことで異様に盛り上がり、ネット上にアップされた予告編はわずか4か月で1000万回を突破。フィンランドでは初登場1位の大ヒットを記録した。続編の企画が進む一方、自ら結成したメタルバンドのリードボーカルとしても活動中だ。
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