ハードコア番組『BAZOOKA!!!』演出家が考えるテレビ界のタブー 地上波はもはや”テレビの墓場”
#テレビ #メディア
BSスカパーで毎週月曜22時から1時間生放送で『BAZOOKA!!!』という番組が放送されている。出演陣はMCに芸人の小籔千豊と俳優の真木蔵人。脇を固めるのは、エリイ(Chim↑Pom)、高垣勇二(格闘家・モデル)。このメンバーを見ただけで、何かヤバいことが起きるに違いない! とピンとくる人も多いだろう──。
まず今回インタビューを受けていただいた岡宗秀吾氏が演出を手がける『BAZOOKA!!!』(BSスカパー)について説明しよう。放送禁止スレスレの芸人たちを集めた「放送NG演芸」や、「FUCK風営法」と題して、風俗営業法違反でクラブが摘発される事案を受けて、クラブ界の重鎮・大貫憲章やラッパーのZeebraなどが風営法のあり方について考えるなど、多彩かつアナーキーな企画でテレビ好事家に大きな支持を受けている番組である。そこで岡宗氏にテレビ界の現状やテレビにおけるタブーについて伺った。
──今回の特集テーマは各メディアのタブーなんですが、テレビの現場でタブーを感じることはありますか?
岡宗 取材依頼をいただいたので考えてみたんですけど、結局タブーがあったとしても、ボクら現場のディレクターが線を引くわけじゃないんですよ。プロデューサーや放送局がどう対応するかっていう問題で。たとえばボクが今かかわっている『BAZOOKA!!!』も、過激に見えますけど、局側と了解がとれているからできることなんですね。むしろスカパーさんに「なんであんな番組やってるんですか?」って聞いてほしいぐらい(笑)。
──企画自体はスムーズに通ったんですか?
岡宗 もともと5~6年前から原型となる企画はあったんです。それで去年10月にBSスカパーが開局するにあたって自前の番組を作りたいという話があり、そこにハマったんです。BSって視聴者に選択されないと見てもらえない環境ですから、だったら少し刺激的な内容で「こんな番組もやってますよ!」ってアピールしたいということだと思います。
──毎回、ゲストのキャスティングが攻めてますが、上祐史浩氏が出演された時は、「何で出すんだ?」みたいな声があったりはしませんでしたか?
岡宗 そうした反響があったことは確かです。ボク自身、今でもよかったのか悪かったのか悩むところです。彼は、95年に起きた一連のオウム真理教事件の時はロシアにいたので実行犯ではないし、重要犯罪の罪にも問われていない。けど、同時に現在も公安警察にマークされてる宗教団体(ひかりの輪)の代表でもある。この状況で世間が「いっさい彼の話を聞くつもりはない」ということでいいのか? っていう問題もありますよね。ただ、『BAZOOKA!!!』はエンタテインメント色が強いし、音楽ライブまで一緒に流しちゃうんで、罪作りな部分もある放送だったとは思います。でも、ボクとしてはオモロくないってのはイヤだし、やっぱりセンセーショナリズムっていうスケベ心もある。それにアブない部分を削って、排除して、安心して観れるようにガチガチに固めるっていうのも違うと思って。そこは常に自分の中の倫理や正義と向き合いながら作るしかないんですね。特に上祐さんの時はスタッフ内でも意見が割れましたから。
──最終的に決断するのは岡宗さんなんですか?
岡宗 いや、そこで判断したり、覚悟するのはプロデューサーですね。ボクらはあくまで「この素材、使えますか?」って聞く料理人の立場で。
──上祐氏については「いいよ」と。
岡宗 そういうことです。実はスカパーのプロデューサー陣って、多くが地上波の局からの出向なんです。そこが面白くて。つまり、彼らはテレビにおける規制の問題をよくわかった上で、ボクらにゴーサインを出しているんですから。
──BSやCSが多少、治外法権的な場所になっているということでしょうか?
岡宗 ……という部分も多少はあるのかもしれないですね。だからこそ、むしろボクらはマナーよくしなきゃとも思ってますね。
──先日(8月13日)放送された「熱演AV女優チャック下ろす前に大賞!」では、絡みシーンまでちょこっと流れたのが衝撃でした(笑)。
岡宗 ウチの和田英智ってディレクターが担当したんですけど、ボクも意外でした(笑)。ボクとしては、セックスを見せるのは本意ではないんですけど、乳首はいいんじゃないかと思うんです。今、地上波では、乳首はNGなんですね。でも、ネットで過激なエロが、子どもでも閲覧できてしまう時代じゃないですか。それに比べたらボクらなんて、乳首しか見せられないし、ガチの喧嘩も見せないし、現役の暴力団も呼んでないし……タブー云々、以前の話ですよ(笑)。
■「テレビが面白くなくなった」という物言いは本当か?
──昔はNHKだってヤクザのドキュメンタリーを流していたんですけどねえ。
岡宗 山口組と一和会の抗争とかね(笑)。あれこそ、今は絶対タブーでしょう。あと、そういうわかりやすいのだけじゃなくて、知らないうちにダメよってことが増えているのも事実ですね。ある局では「罰ゲーム」って言葉がNGで、「お仕置き」に変えてくださいとか。
──そういう言葉でイジメが助長されると?
岡宗 そう、「罰をゲームにしちゃ、ダメ」って。でもそのストップもだいたいが自主規制で、結局はプロデューサーが腹くくるつもりあるのか? いや、そんな言葉一個で腹くくる訳ないじゃないか! とか、そういうことだったりするので(笑)。
──何を恐れての自主規制なんですかね。
岡宗 一番大きいのはクレームですよね。クレームもいろんな次元のものがありますけど、「クレームがあった」っていうことが、社内の低評価につながり、クライアントも嫌がるところがあるんでしょうね。
──そこは番組作りの足かせになったりするんですか?
岡宗 なくはないですけど、ボクは規制をなくしたいとか、変えようとか、そういうことではなくて、まず「面白い」ってことが先にあって、それを実現したいだけなんですよ。さらに構造的なことに突っ込んで言うと、よく「テレビが面白くなくなった」っていう話がありますけど、実際はそんなことないと思うんです。むしろ見せ方の技術については進化していて、3年前の番組ですら今観ると古く感じるぐらいです。じゃ、何が変わったのかというと、その「テレビが面白くなくなった」と言いがちな20代後半~40代の男性向けの番組が減ってるんですよね。
――それには理由があるんですか?
岡宗 理由はいくつかあると思いますが、かつて視聴率ってビデオリサーチとニールセンの2社が調査していたので、2%ぐらいの誤差があったんですね。それが00年にニールセンが撤退し、指標が1つになった。しかも毎分グラフや年齢性別なども細かく出し、数値が絶対化したんですね。だから、テレビマンがそのゾーンにボールを放ってみても、ネットでは盛り上がってるように見えたとしても、全体の視聴率では、そこにお客さんはあまりいないことが明らかで。だってそのゾーンはゴールデンタイムにテレビの前にいないんだもん(笑)。深夜番組だってゴールデンに行こうと意識して作りますし、そうなるとよっぽどのことがないと、数字の取れない「男向けのオモロい企画」は当然、通りにくいんですよ。
──面白いだけじゃなく、ターゲットが見えないとダメっていう。
岡宗 テレビ制作のお金の流れを考えればそれは当たり前の理屈なんですけどね。まぁそれでも成功例がゼロではないし、頑張ります! としか言えないです(笑)。
(構成/九龍ジョー)
岡宗秀吾(おかむね・しゅうご)
1973年、神戸生まれ。演出家。代表作にDVD『全日本コール選手権』シリーズ、『とにかく金がないテレビwithYOU』、『相談バカ一代』(共にテレビ東京)。参加番組として『クイズ☆タレント名鑑』(TBS)など。また、バナナマン単独ライブのディレクターを8年務め、大根仁氏(演出家、映画監督)と「テレビマンズ」というユニットを組み、トークイベントなどを行っている。
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