ベストセラー作家・海堂尊に聞く「“チーム・バチスタ”シリーズ、そして日本エンタメ界の未来」
#本 #医療
海 確かに、ずいぶん成長してくれたなと思います。『チーム・バチスタの栄光』には「願いごとは叶う。ただし半分だけ」っていう田口のセリフが出てくるんです。今回の作品にも、まったく同じセリフが出てきますが、さらにもう一行つけ加えられているんですね。ここを書くことができた時は、「ああ、いよいよ終わるんだな」と、ちょっと感慨深いものがありました。ひょっとしたら、この一行をつけ加えるために、シリーズ6作を書き継いできたのかもしれません。
■とにかく面白い物語を書きたい
本シリーズでは、死体を画像解析することによって死因を特定しようという新技術「Ai」(オートプシー・イメージング)が、非常に大きな役割を果たしている。これまでほとんど一般に知られることのなかったAiも、『チーム・バチスタの栄光』の成功によって、かなりポピュラーなものになった。そして海堂さん自身、医師として長年Aiの普及・推進に努めてきたという経歴を持つ。
海 よく誤解されるんですが、Aiを普及させようと思って『チーム・バチスタの栄光』を書いたわけではないんですよ。長年Aiの普及に関わってきたのは事実ですし、それがあったからこそ思いついた物語だったんですが、そもそもの動機は「面白い物語を書きたい」ということ。「あまり知られていないAiという技術を使えば、面白いミステリーが書けるんじゃないか」と思ったんです。「これはAiの普及に使えるな」と気づいたのは、本が出てからですね。
今作では、田口が所長を務める「Aiセンター」が建設され、いよいよAiが本格的に医療の現場に導入され始める。一方、現実社会でもAiの実用化をめぐって大きな変化があった。
海 今年の5月に、死因究明関連法案という法律が国会で可決されました。不備の多い法律ですが、とりあえずAiを軌道に乗せるところまでは来た。これまで作家をしながら、Ai導入のために働いてきましたが、個人でできる範囲は一段落。あとは現場の専門家の方々に任せる段階が来たのかなと思っています。 バチスタ・シリーズが終わり、Aiの仕事が終わり、長年関わってきたものが続けて手を離れた、そんな12年でした。
こう聞くと、シリーズの展開と海堂さん自身のプロフィールが重なっているようだが、作品はあくまでフィクション。キャラクターに特定のモデルなどは存在しないそうだ。
海 特定のモデルを念頭に置くと、逆に動かしにくくなってしまうんですよ。大学病院内でのゴタゴタを描いてはいますが、人が集まる組織ならどこでも起こり得ること。医療関係以外の方に「こういう人っていますよね」と言っていただくと、「普遍的な事件を書いているんだな」とあらためて思います。僕はあまり出世欲がなかったので、大学病院内の生々しい事件って、実際にはそれほど目にしていないんです(笑)。
あくまで主眼は、面白い物語を描くこと。医療をめぐるさまざまな問題を取り上げながら、海堂さんの姿勢は一貫して変わらない。
海 物語って、現実を忘れさせなければ意味がないと思うんです。本1冊の値段は、ちょうど映画1本と同じくらい。映画の世界にひたるように、小説でも現実を忘れてハラハラドキドキしてもらいたい。そのためにはストーリーはもちろん、文章の細かな部分にもかなり気を使っています。「ミステリー」というジャンルは僕にとって、エンターテインメントの王様。すいすい読めて、とにかく面白い。そんな物語を書きたいと思っています。
■エンタメ、そして今後の展開
長びく不況のため、本やCDが売れないといわれて久しい。エンターテインメントの第一線で活躍してきた海堂さんには、今日のエンタメ業界はどう映っているのだろうか?
海 難しい質問ですが、もっと活気があってもいい気はしますね。ミリオンセラーがどんどん出る世の中のほうが、賑やかで面白いに決まっている。特に最近は、コンテンツを無料で楽しもうという風潮が強くなってきていて、正直どうなんだろうなと思います。エンタメにもっとお金を使って、本やCDを思いっきり買って、「ああ、俺ってバカだなあ」と反省する(笑)。そういう世の中であってほしいですね。
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