『おもかげ復元師』震災で300人以上の遺体を修復した「復元納棺師」が見た風景とは?
#本 #東日本大震災
――技術はすべて独学だそうですね。
笹 そうです。だから復元を始めた頃は、「このご遺体にはどう向き合ったらいいんだろう」と、よく困りもしました。けれどそういう時には、どこからか泣き声が聞こえてくるんですよ。「お父さんに会いたい」「お母さんに会いたい」「子どもに会いたい」って。そうすると、なんとかしてこの方をご家族に受け入れてもらいたい、という気持ちになるんです。がんばって生きてきたのに、最期に受け入れてもらえないなんて寂しいじゃないですか。残されたご家族が大好きだった顔に戻れば、その方の人生がさわやかに締めくくられるんです。責任は大きいですよ。特に震災では、幼い子どもを残して亡くなった方も多くいらっしゃいました。あまりに損傷が激しいと、子どもとの対面を避けるご遺族もいる。子どもが親と対面してちゃんとお別れするのは、死を受け入れるために大切なことのひとつです。
* * *
笹原さんは、ただ姿形を復元するだけではなく、遺族の心のケアも行うという。そのため、復元後は残された家族に参加してもらい、一緒に死化粧をしたり仏衣を整えたりして納棺する「参加型納棺」を提唱している。そこで遺族は初めて涙を流すことができ、思い出を語り、生前の家族の関係が戻ってくることも少なくないのだ。
* * *
笹 納棺の時、私は、例えば「目は閉じますか? 開けますか?」とご家族に相談します。「みなさんのことを確認されたいかもしれないから、開けたままでもいい。でも、開いていると眼球の水分が抜けて、高さがちょっと変わったりする可能性もありますよ」と。そうした会話によってご家族は、亡くなった方のためを思って、どうすればいいかを一生懸命考える。参加型納棺は、そうした時間の積み重ねです。そうしてご家族は、ご遺体と対面しながら、いろんな感情を吐き出すことができる。私もご家族とコミュニケーションを取りながら、悲しみの中に何があるのかを把握し、お話をさせていただいています。私が話した内容を、亡くなった方の言葉として受け止める方も多いですね。「まるでお母さんが言ってるみたい」って。でも本当はそれは、ご家族自身の潜在意識の中にある声を、私が引き出してあげただけなんです。
――過酷な復元処置をし、遺族の話をひたすら聞いて、笹原さんご自身には相当なストレスがたまるのではないでしょうか?
笹 この参加型納棺は、私にとってのケアにもなっていると考えているんです。ご家族同士、深いところで心が通じている、本当にいい時間なんですよ。そこに私も入れてもらって……大好きなんです、この仕事。ただ「つらい」ばかりだったら、続けていないと思います。もちろんご家族によっていろんなケースがありますから、たまに悪口で終わることもあります。ご遺族の嘘泣きも、すぐにわかりますよ(笑)。「嫌いだったけど、実際にいなくなると寂しいね」なんて言う人も。家族、いろいろあって当たり前、それもありだと思うんです。ふだん社会の中では仮面をつけているけれど、死の場面では、人の“素”の部分が出るんですよね。
* * *
死を受け入れて生きるとは、どういうことなのか? 笹原さんの著書は、それを教えてくれているのではないだろうか。
(文=安楽由紀子)
●笹原留似子(ささはら・るいこ)
1972年、北海道生まれ。岩手県北上市在住の「復元納棺師」。復元・納棺を専門とする株式会社「桜」の代表を務める。東日本大震災で300人以上の遺体を生前の姿に戻す「復元ボランティア」を行ったことが高く評価され、2012年、社会に喜びや感動を与えた市民に贈られる「シチズン・オブ・ザ・イヤー」を受賞。同年8月には、納棺現場での忘れられないエピソードなどを綴ったエッセイ『おもかげ復元師』と、震災後に復元して見送った方々の顔を描いたイラストエッセイ『おもかげ復元師の震災絵日記』(共にポプラ社)を出版した。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事