大家族の伝統料理から超手抜きレシピまで勢ぞろい! 台所から見えてくる中東の家庭事情『イラン式料理本』
#映画 #パンドラ映画館
待ちきれず、双子の息子たちは台所でつまみ
食いを始める。
もう1人、現代のイランを代表する若い女性が登場する。シルワーニ監督の妹さんだ。妹さんは結婚して双子を育てながら大学に通っている。とっても忙しいけれど、夫やわんぱく盛りの子どものために手料理を食べさせようと頑張る。ところが若いこともあって、恐ろしく段取りが悪い。昼食を作るために午前11時30分からキッチンに立ち、ナスの煮込みを作り始める。だが、完成したのは夕方4時すぎ。もはや昼食とは言えず、空腹は最高の調味料という段階を遥かに越えている。双子の兄弟は完全に落ち着きを失い、カメラの後ろではご主人がげんなりしている様子が思い浮かぶ。妹が一生懸命なのは分かるが、義母たちの世代が幾つものことを同時にパパッとこなれた動作で片付けるのに比べ、あまりにもリズム感も流れるような動作もない。推測するに、上の世代と違って大家族にもまれ、姑に厳しく扱われ、それにどう立ち向かうかという修羅場の経験値が低いようだ。頭の中では、良き妻・良き母になろうと努めているのだが、体の動きが追っ付かない。この一家4人に幸あらんことを願う。
台所に立つイラン女性たちの姿を見ながら思うことは、日本の女性たちとまるで変わらないじゃないかということ。毎日の献立に頭を悩ませ、ウマの合わない親族や知人の悪口を時々こぼしながらも、家族全員の健康を考えている。若い頃にイジメられた義母が姑と歴史的和解を遂げたその直後、絶妙すぎるタイミングで義母の旦那が台所に闖入し「嫁入りしてすぐのお前は、何もできなかったよなぁ」と蒸し返す。「たった今、水に流したところなのよ!」と義母に怒鳴られ、旦那はすごすご退散するしかない。まるでコントの1シーンのよう。いくら男たちが家の外で威張っていても、家庭の中を仕切っているのは女たちなのだ。世界中の女たちは何十年も何百年も、女の城である台所に立ち、家族のためにせっせと毎日毎食のようにご飯を作り続けてきた。その事実はどんなに美しい愛の詩よりも祈りの言葉よりも胸を打つではないか。美味しいごちそうも、驚愕の失敗料理もすべては、女たちの愛の結晶なのだ。愛のコーランだ。男たちは心して食するしかない。
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