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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.187

大家族の伝統料理から超手抜きレシピまで勢ぞろい! 台所から見えてくる中東の家庭事情『イラン式料理本』

iranshiki2.jpgシルワーニ監督の義母とその姑。かつて、
この台所では女たちの凄まじいバトルが
繰り広げられた。

 途中、様子を見に姑さんがカメラにフレームインしてくる。義母は手を休めることなく、「私が嫁入りした直後は、よくイジメてくれましたよね」とチクリと口撃。女同士の火花が散る。だが、かつてはこの台所を仕切っていた姑も年老いており、家のことはすでに義母が実権を握っている。「あなたがまだ若くて、何も知らなかったから、躾のつもりでいたのよ。ごめんなさいね」と姑は曲がった腰をさらにかがめる。このときの義母のリアクションが涙を誘う。「許すも許されるも、今さらありませんよ」。多分、姑も若い頃には先代の姑に厳しくされ、それと同じように義母に接しただけなのだろう。イヤなことも楽しいことも、全部ひっくるめての家族。革命があり、戦場に向かう男たちを見送ってきた。同じ釜を炊いて、一緒に食べてきた仲じゃないですかと義母は言いたげだ。このシーンを観ていて、ボブ・マーリーの「ノー・ウーマン・ノー・クライ」が脳内スピーカーから流れましたよ。義母が作る伝統料理ドルスとクフテは、ユーモアとちょっぴり涙味がブレンドされた人情たっぷりな逸品です。

 続いて登場するのは現代女性の代表、シルワーニ監督の奥さん。かなりの美人で理知的な顔立ちをしている。義母が手料理にこだわっているのに対し、シルワーニ家の台所には家電製品が並ぶ。シルワーニ監督が夜遅くに友達を連れてきたことを奥さんはプリプリと怒る。「夜10時から何を作れというの?」「どうして10人も連れてくるの? 炊飯器は8人分しか炊けないのよ。後の2人には我慢してもらうしかないわね」と恐怖のマシンガントークで夫を粉々に撃ち砕く。結局、その晩に奥さんが振る舞った料理は、缶詰のシチュー。これなら温めるだけで、すぐに出せる。監督の友人が「このシチュー、とっても美味しいですよ」とお愛想を言うと、「そうでしょうね。缶詰ですから」と身も蓋もない返事。海外から訪ねてきた友人たちに自慢の美人妻とイランの家庭の雰囲気を知ってもらおうとしたシルワーニ監督の面目丸潰れ。

 母親と違って料理を作るのが大キライな奥さんに対し、シルワーニ監督は「じゃあ、外食する機会を増やそう」と譲歩案を提示するが、「貧困で食べるものに困っている人がいるのに、贅沢するのはイヤ」。奥さんの言っていることはもっともだが、もはやシルワーニ監督はお手上げ状態。さらに彼女は極めつけの台詞を吐く。「料理を食べ終わった後、男たちは片付けを手伝うそぶりも見せずに寛ぎ始める。それを見ると、男たちの首をひとつひとつ斬り落としたくなる」。なんとも過激だが、これって世界中の主婦たちが激しく同意する発言でしょう。シルワーニ監督の奥さんは、世界の中心で“家事はキライ”と叫ぶ。

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