3つのバイトを掛け持ちし、駅のトイレで寝泊まり……子どもたちを蝕む、貧困の連鎖
#本 #貧困
民主党政権になり、2010年からは子ども手当の支給と、高校無償化が実施された。「チルドレン・ファースト」を公約として掲げていた民主党政権は、この国の将来を担う子どものために財源を使い、子育てにかかる出費は軽減されるものと期待された。しかし、高校を例にとれば、公費負担は授業料のみ。修学旅行積立金、PTA会費といった月1万円ほどの負担は、家計にのしかかる。以前なら授業料とともにPTA会費なども免除になっていた低所得家庭の生徒にとっては、実質的な値上がりだ。本書では、月5万円の奨学金を得ることができても、家賃の支払いと借金返済のために親が使い込んでしまうという事例もレポートされている。
大阪府内のある小学校では、保健室を訪れる児童に対して給食の残りのパンと牛乳を出している。この地域の就学援助利用率は40%に上り、給食以外に満足な食事も摂れない児童は多い。目が悪くなってもメガネを作ることもできず、成長する子どもの体格に合わせた体操服を用意できない家庭もある。保育園では車上生活を送る園児や、親によるネグレクト(育児放棄)や虐待などを受ける園児が後を絶たない。
本書の内容は、一般的な教育を受けて育ってきた読者にとっては、思わず目を背けたくなるものばかりだ。しかし、このような事例は、どこの学校でももはや特別なものではない。むしろ、本書に登場する生徒・児童たちは、まだマシといえるだろう。取材に協力する先生たちは、勤務外の労も厭わず、自分の時間を削りながら子どもたちを支えているからだ。しかし、それはあくまでも教師たちの個人的な熱心さのなせる業。この子どもたちを支える社会的なシステムは存在していない。
いまだに「貧困は自己責任である」という風潮は強い。確かに自己責任の側面もないとは言い切れないが、親のネグレクトや借金問題などによって貧困に直面する子どもたちに限っては、それは当てはまらないだろう。3つのバイトを掛け持ちし、公衆トイレで眠りながら定時制高校に通う少女に「それは、あなた自身の責任です」とは言えない。そして、満足な教育を受けることができない彼らの大部分は、おそらく数年後に、ワーキングプアとして労働市場に送り込まれるのだ。
豊かな日本の裏側で、子どもたちは逃れることのできない連鎖に蝕まれている。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])
●ほさか・わたる
1979年に共同通信社入社。社会部を経て、編集委員室編集委員。著書に『虐待』(岩波書店)『迷宮の少女たち』(共同通信社)などがある。
●いけたに・たかし
1988年に共同通信社入社。大阪社会部次長などを経て、社会部次長。著書に『死刑でいいですー孤立が生んだ二つの殺人』(共同通信社)がある。
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