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追悼・山田五十鈴──反骨の大女優の最高傑作はこれだ!『女ひとり大地を行く』

onnahitori.jpg『女ひとり大地を行く』(新日本映画社)

 今月、95歳で世を去った女優・山田五十鈴。戦前から70年あまりにわたって活躍し、女優として初の文化勲章を得た彼女の死は、一つの時代の終わりを感じさせる。それでも、生涯にわたって数多くの映画・ドラマに出演した彼女の作品は、決して色褪せることがない。

 そんな彼女の作品群の中でも、とくに今の時代だからこそ見るべき! という作品がある。それが、亀井文夫監督作『女ひとり大地を行く』(1953)である。日本炭鉱労働組合北海道地方本部加盟の炭鉱労働者が1人33円ずつ資金を出し合い、300万円を集めて制作したという、まさに働く者たちの映画だ。撮影は、夕張炭鉱などでスタッフが寝泊まりしながら進められたという気合いの入りぶり。

 物語は昭和7年。秋田県で農業を営む宇野重吉と山田五十鈴の夫婦は、凶作による生活苦に陥る。そのために、宇野は我が身を売って北海道の炭鉱のタコ部屋へ送り込まれるのである。しかし、地獄のようなタコ部屋生活の果ての爆発事故で彼は死んでしまった。夫を追いかけてきた山田は、二人の子どもを抱えて夫の死んだ土地で女炭鉱夫として生きていくことを決意するのだ。

 こうして物語は、戦中から戦後へと山田演じる女の一代記として綴られていく。小さな子どもを抱え気丈に生きる時代から老いて死の床に着くまでの長い期間を、一人で演じきっているのは、感嘆するよりほかない。なにより、当時の山田は、すでに文字通りの大女優。まだ戦後の混乱が冷めやらぬ時代とはいえ、それなりのブルジョアだったはず。にもかかわらず、完全にプロレタリアートな女性になりきっているのだから、その演技力は計り知れない。山田は戦後動乱期の大労働争議として、歴史に刻まれている東宝争議の際に、経営側に毅然として戦いを挑んだ反骨精神の持ち主としても知られている。戦前から大衆の支持を得た理由である類い希なる妖艶さ、それに反骨精神、単なる「大女優」という言葉ではくくれない、いくつもの要素が彼女の世界観を豊かなものにし、女の一代記をサラリと演じさせているのである。

 まさに、山田の代表作として数えてもよい作品なのだが、公開当時はまったくヒットしなかったそうで、知名度は高くない。現在、DVD化されているのも、ある意味奇跡的といえる。しかし、日本が戦後の動乱期に等しい混迷の時代に突入した今、この作品は再び鑑賞すべき価値を得ているのではないだろうか。

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