「このアルバムは『はだしのゲン』の第1巻のようなもの」ソウルセット・渡辺俊美が歌う“県内の人”の歌
#音楽 #インタビュー
――今作の落ち着いたトーンには、俊美さんの等身大の姿が描かれているように感じました。一方で、今の日本の状況を考えれば、怒りに満ちたレベル・ミュージック(反抗の音楽)になる可能性もあったのではないかと思います。
渡辺 七尾旅人くんの「圏内の歌」や、斉藤和義くんの「ずっとウソだった」、フライングダッチマンの「Human ERROR」、この3人の曲が僕の怒りの気持ちを代弁してくれています。それ以上のことは、僕が歌うことではないんじゃないかと思いました。そのような怒りは、“県外の人”が歌うことなのではないかと。
僕は被害者でもあるんだけど、ずっと原発の近くに住んできたし、なんらかの形で恩恵は受けきた加害者としての側面もあります。そのような“県内の人”が、どのように歌を歌うべきかを考えていました。今作で「僕はここにいる」という歌が一番最初にできたんですが、その中に「誰のせいでもない」という歌詞があります。国のせいでも、東電のせいでも、自分のせいでもない。誰かをヒステリックに責めるのではなく、自分の選択は自分で決めるということを歌っています。人々がいがみ合って、あたかも戦争のような状態にならないための、僕なりのレベル・ミュージックであり、“県内の人”の歌なんです。
――加害者でもあり被害者でもあるというのは、まさに「当事者」である福島県人の複雑な感情ですね。
渡辺 猪苗代湖ズでは、どんな応援ソングにも負けない歌を出したという自信があります。次に何を歌おうかと考えたら、「これは福島だけの問題じゃない、日本の問題だよ」ということを言わなければならないと思いました。
――1986年に起こったチェルノブイリ事故の時は、どういったお気持ちだったんでしょうか? 当時も、何か音楽で表現しようと思っていたんでしょうか?
渡辺 当時は20歳で、東京で洋服屋を始めた頃でした。「チェルノブイリ」を歌っていたブルーハーツも「サマータイムブルース」を歌っていた忌野清志郎さんも大好きだったんですが、原発のすぐ近くに住んでいた僕はこういう歌を歌えないと思っていましたね。同級生にも原発関連で仕事をしている人がたくさんいました。原発を否定することは、その人たちの仕事も否定することにもなってしまいますからね。
――今回の事故でもやはり、原発関連で仕事をする同級生や周囲の人のことは考えましたか?
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