親友=お金を貸してくれる、女友達=SEXさせてくれる!? 品性お下劣男の青春『苦役列車』
#映画 #パンドラ映画館
貫多よりかなり年上の高橋だが、この2人はひどく仲が悪い。休憩中に「お前ら、若いのに夢もないのか。オレは歌がうまいから、歌手になるぞ」と貫多と日下部に説教を垂れる高橋はうっとうしい存在だ。歌手になんか簡単になれるわけがない。夢を見れば、それだけ生きるのが虚しくなるだけだ。貫多にとっては、自分の将来の姿を見せつけられているようでムカムカする。高橋もまだ若くて人生のやり直しが可能な貫多に向かって、つい余計なひと言が言いたくなる。似た者同士でいがみ合ってしまうのだ。貫多にとって高橋は親友でもなければ尊敬できる先輩でもない。ただ、バイト先ですれ違っただけの関係。ところが意外にも高橋の存在が、無目的に生きていた貫多の人生に光を注ぐことになる。高橋自身も『小僧の神様』みたいに、そのことに気づいていない。人生を生きていく中で、家族、親友、恋人といった存在はもちろん大きいが、そうでない人たちの存在もけっこー大きいことを本作は教えてくれる。面白い人、つまんない人、面倒くさい人、いろんな人たちがいる中を、苦役列車は進んでいく。
ポーツ)のことが貫多は嫌い。でも、親しい
人には言えないことが、親しくない高橋には
言えてしまう。
最後になったが、ヒロインである康子を演じた前田敦子について。AKB48卒業を心に秘め、かなり気合いを入れて本作に挑んだと思われる。でも、その気合いを入れてます感を感じさせないところが彼女の魅力なのだろう。寝たきりのおじいちゃんの下半身に溲瓶(しびん)をあてがうシーン、下着姿で冬の海に入るシーン、グチョグチョになりながらのキスシーン……。山下監督が用意したイジワルな難関を、まだピカピカの女優魂で挑んでいく。演技がうまいというのとは違うが、初めての山下組の撮影現場での、ちょこんとした身の置き方、控えめな佇まいが、地方から上京してきた康子のキャラクターと重なり、いい感じで作品に溶け込んでいる。
山下監督に女優・前田敦子の印象を聞いたところ、「つかみどころのない女の子。会う度に違った印象がある。できれば違う役でもう一本、彼女を撮ってみたい」と語っていた。山下監督の『リアリズムの宿』(03)では尾野真千子、『リンダ リンダ リンダ』(05)ではペ・ドゥナがやはりつかみどころのない不思議な女の子役で出演し、その後ブレイクを果たしている。山下監督のこの言葉は、AKBを離れて、彼女なりの“苦役列車”に乗り込む前田敦子にとって何よりもの餞別だろう。
(文=長野辰次)
『苦役列車』
原作/西村賢太 脚本/いまおかしんじ 監督/山下敦弘 出演/森山未來、高良健吾、前田敦子、マキタスポーツ、田口トモロヲ
R15 配給/東映 7月14日(土)より丸の内TOEI、新宿バルト9ほか全国ロードショー <http://www.kueki.jp> (c)2012「苦役列車」製作委員会
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