「無駄にデカい」だけじゃない! あの塔の“読み方”を知る『東京スカイツリー論』
#本
「昭和期には明るい未来に向かう<昼>の『進歩』一辺倒だった東京タワー」が「平成に入って人間の普遍的な性や死に寄り添う<夜>の面を獲得」できたように、スカイツリーが抱えた「不合理かつ不名誉な日本の社会システムやテクノロジーの在り方の結晶体として」の<昼>の機能ではなく、“<夜>のスカイツリー”への模索こそが本書の本質だ。そしてその多くのヒントが、スカイツリー計画発表から完成までの周囲の人々の姿を追った4章に詰まっている。
著者が最初に新タワー建設計画を知ったのは、地元墨田区が建設候補地に選ばれた05年。急速に進む新タワー計画に不安を感じ、SNSを通じて集まった有志で「すみだタワー(仮)構想を考えてゆく住民の会」を結成。事業者である東武鉄道に、新タワー試案の提案や電磁波の出力・周波数開示を要求するなど、自らタワー建設に関わってきた人物なのだ。また、建設予定地でサーチライトを使って夜空に光のタワーを描く「光タワープロジェクト」や、建設地を訪れる観光客の憩いの場としてオープンした「枕橋茶や」、スカイツリー完成までを定点観測で写真に収めるグループ「スカテン」、スカイツリー建設観測記録の同人誌『スカイツリー Report』など、事業者の意図とは関係のない形でスカイツリーをめぐって活動していく人々の姿が描かれる。
「かつての東京タワーが高度成長する日本の『大きな物語』への自己同一化として人々に目指されていった事態を逆に捉え返して、物語のない状態から、あくまでも個々のまなざしがとらえた『小さな物語』を集積していくことによって、スカイツリーの物語性をボトムアップ式に構築していくムーブメントとして自分たちの活動を位置づける意志性が、ここには垣間見えよう」(本書より)
つまり、こうした活動の中に、夜のスカイツリーはすでに芽吹き始めていたのだ。
スカイツリーは日本古来の五重塔を参考にしたとされる。中心に建てられた心柱と、それを囲むような籠編み状の塔体。タワー自体は心柱のみで支えられており、ほとんどの部分で心柱と塔体は固定されていない。鉄骨がむき出しの東京タワーとは違い、スカイツリー自体を支えるものは隠れており、タワーの外見を作っているのは塔体だ。その構造は、4章にも書かれたスカイツリーを中心とする周囲の人々のコミュニケーションこそが、スカイツリーの物語を形成していったことに似ている。つまり、意味としてのスカイツリーの形は、我々次第でこれから好きなように作ることができるのだ。これから昇る人も昇る気がない人も、本書を読んでスカイツリーについて一度考えてみてはどうだろうか。間違いなくあの馬鹿でかいシロモノの見え方を変えてくれる一冊だ。
(文=大熊信)
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