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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > “悪魔の弁護人”の素顔
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.177

毒カレー、オウム真理教、光市母子殺害……“悪魔の弁護人”と呼ばれる男の素顔『死刑弁護人』

 オウム事件の麻原彰晃も弁護の引き受け手がいないことから、安田弁護士が国選弁護人として選ばれた。当初、麻原は接見にきた安田弁護士と友好的な関係だった。しかし、教団幹部・井上嘉浩の反対尋問の際に、麻原が打ち切りを要求し、安田も休廷を申し入れるが、裁判所はこれを認めなかった。この後、麻原は態度を一転させる。弁護人との接見を拒否し、意味不明の言語を口にするようになる。麻原の精神は崩壊していった。やむをえず安田弁護士は法廷を欠席しての引き延ばしを図る。麻原の量刑を早急に決めることよりも、社会を揺るがした大事件の真相を明らかにすることが何よりも大事だと安田弁護士は考えた。ところが、安田弁護士は1998年に強制執行妨害の容疑で身柄を拘束され、麻原の弁護人から解任されてしまう。オウム裁判の早期終結を目指していた司法にとって、“悪魔の弁護人”の存在はひどく目障りだったらしい。この事件は“安田事件”と呼ばれ、国家権力がひとりの弁護士を潰しに掛かったことを物語っている。

shikei_bengonin2.jpg悪徳弁護士=高級車での移動、のイメージが
あるが、安田弁護士はもっぱら電車での移動。
いつも質素な身なりだ。

 そして、安田弁護士へのバッシングが最高潮に達したのが、「光市母子殺害事件」。排水検査を装った当時18歳だった元少年は、同じ公団アパートに住んでいた主婦の首を絞めて殺害した後に陵辱。さらに生後11か月の赤ちゃんの首にヒモを巻き付けて殺害。遺体をそれぞれ押し入れと天袋に隠した。未成年者の犯罪ゆえ一審二審の判決は無期懲役だったが、遺族感情を考慮した最高裁が審理の差し戻しを命じたため、死刑判決の可能性が強まった。ここで前任弁護士に代わって元少年の弁護に就くことになったのが、安田弁護士を主任とする21人の弁護団だった。それまで殺意を認めていた元少年だが、接見した安田弁護士に「殺意はなかった」と話したことから、法廷は混沌と化す。精神鑑定の際の「ドラえもんが助けてくれると思った」「『魔界転生』の復活の儀式のつもりだった」という供述を持ち出したため、世論の怒りの火に油を注いだ。安田弁護士らは鬼畜、悪魔と罵られ、カッターナイフの刃や銃弾が送り付けられた。それでも安田弁護士はひるまない。オウム事件と同様、懲罰の度合いよりも事件の真相を徹底的に究明することが自分の使命だと考えているからだ。再び悲惨な事件が起きることを防ぐには、事件の問題点をすべて明るみにしなくてはならない。そのために“悪魔の弁護士”の汚名を甘んじて受けている。

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