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現金あらへん吉本興業経営危機説、上場廃止で墓穴掘った?

 サイゾー新ニュースサイト「Business Journal」の中から、ユーザーの反響の大きかった記事をピックアップしてお届けしちゃいます!

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現金あらへん吉本興業経営危機説、上場廃止で墓穴掘った? – Business Journal(6月22日)

post_307_20120624.jpg反社会的勢力との関係があると、
銀行融資に支障が出る。紳介クビの
一番の要因との声も。

限りなくMBOに近いTOB

 ネット上や一部週刊誌などで、「吉本興業経営危機説」が取り沙汰されているが、同社はもともと、そんな危ない会社どころか、実質無借金経営を続ける、豊富な余剰資金(現預金残高)を持った「財務の優等生」だった。

 上場企業としての最後の本決算である、2009年3月期連結決算の貸借対照表(バランスシート)を見ると、約30億円の有利子負債を、約124億円もある現預金残高で完全にカバーできる「実質無借金」状態。総資産は約617億円、純資産は約450億円で、安全性を示す自己資本比率は72.9%もあった。

 ところが、「週刊現代」(講談社)が入手し4月に掲載した、同社の11年度上期の中間決算データ(非公開の貸借対照表)によると、現預金残高は約50億円に減り、返済すべき負債額は約150億円(返済計画表による)と、現預金残高の約3倍にまで上っている。総資産約458億円に対する純資産は約156億円で、自己資本比率は34.0%に低下していた。

 財務の優等生は、3年足らずで劣等生に一変していたのである。

 その間、10年2月24日に同社は株式上場を廃止している。手法は表面上、「クオンタム・エンターテイメントという会社のTOB(株式の公開買い付け)による買収」というかたちをとっていたが、この会社は10年10月に旧吉本興業を吸収合併した上で、改めて新たな「吉本興業」が設立された。

 TOBでは、時価にプレミアをつけて株を買い取るので買収資金がかさむ。”新生”吉本興業は、旧社がTOBのために銀行から借りた金の債務を受け継ぎ、旧経営陣もほとんどそのまま移行している。つまり、ワンクッションはさみながら、実質的には限りなくMBO(マネジメント・バイアウト/経営陣による企業買収)に近いTOBだったのだ。

買収資金のための負債が経営圧迫

 その結果として、負債がふくらみ財務をかなり劣化させてしまったのである。営業が好調ならある程度はカバーできたかもしれないが、前出の「週刊現代」によれば11年3月期は約39億円の赤字に陥り、12年度中間決算も約15億円の赤字で、連続赤字は確実な情勢だというから、「危機説」が浮上するのも無理はない。

 危機の行方はともかく、「MBOによる上場廃止」は大きなリスクを伴うことを、吉本興業のケースは改めて教えてくれた。

MBOによって経営陣が「独裁者」と化す

 自社の株式を証券取引所に上場するのは、企業の資本強化策の一選択肢にすぎない。

 ところが日本では、株式上場を「一流企業を証明するブランド」、その社員を「一流のビジネスパーソン」とみなす風潮がごく最近まであった。バブルの頃、新聞は「大学新卒者の3人に1人は上場企業に就職できる売り手市場」と書き、上場企業の役員限定の会員制ゴルフ場まで登場した。強引な取り立て手法を非難された商工ローン会社社長が、テレビで「我が社は一部上場企業(だから信用がある)」と開き直って失笑を買ったこともあった。

 その株式上場を、倒産、上場廃止基準抵触、他社による買収や完全子会社化ではなく、経営陣自らの意思であっさり捨ててしまうのがMBOである。

 ・09年:15社
 ・10年:13社
 ・11年:21社
 ・12年:3社(6月20日時点)

が、MBOによる上場廃止を発表しており、3年半で50社以上が上場企業の「ブランド」を捨てたことになる。吉本興業のような「限りなくMBOに近いTOB」のケースも含めれば、実態はもっと多いだろう。

 なぜ、MBOをするのか?

 財務体質がよほどいいか、「これ以上、新株を発行して資金調達する必要がない」というケースもあるが、ほとんどは「上場を廃止すれば買収される心配がなくなる」という買収防衛策か、「株主の意向に左右されず自由に経営ができる」のどちらかである。

 吉本興業の場合は後者で、創業家(大株主)の経営への口出しを封じたかったからだといわれている。

 もっとも、外部のチェックが入らず「自由に経営ができる」とは、好き勝手にやれることを意味する。気に入らない社員を片っ端から追放したり、社会に背を向けて露骨な金儲け至上主義に走るなど、MBOには経営陣が独裁的権力をほしいままに暴走する危険があるとの指摘もある。上場して規模が大きくなった企業だけに権力への誘惑は強くなるし、独裁がもたらす害悪は、そのへんの零細企業のワンマン社長の比ではない。

 極端な話をすれば、上場廃止で財務内容を非公開にし、国家試験の合格者増のあおりで仕事がなくて困っている公認会計士を、それこそ”生活保護”してやって、会計監査人や顧問税理士に仕立てれば、決算や税務申告の操作も思いのままにできる。税務署も、元・上場企業から会計監査報告書や税務監査報告書を提出されてしまうと、なかなか文句をつけにくいからだ。

 かくして会社は、経営陣の不正蓄財の集金マシンに成り下がるが、そんな悪行もいつか終わりの日がくるのが世の常だ。

 かつての「ブランド」の誇りを自ら捨てて去っていった男は、ひねくれて悪の道に突き進んで破滅していったーー。そんなヤクザ映画や時代劇にありそうなストーリーが、MBOで上場を廃止し、誰からもチェックされない企業で起こったりしないだろうか。

MBO後、再上場を果たしたのは2社のみ

 経営陣が「独裁者」にならなくても、MBOを行った企業の大部分は、買収資金調達のために、負債の増加という重い十字架を背負って、非上場企業として再出発することになる。

 買収資金が、いったん経営陣や外部の投資ファンドなどの出資で設立したSPC(特別目的会社)の負債に計上されても、MBO成功後、SPCは買収先と合併して負債がそっくり引き継がれるのが普通だからだ。

 吉本興業の場合は、クオンタム・エンターテイメントがSPCと同じ役割を果たしたが、この会社はソニーの元会長兼CEO・出井伸之氏が設立したので、正確にはこの案件はMBOではないとされている。

 定義はともかく、MBOを行って非上場化した企業のその後は、概してあまりハッピーとはいえない。

 結局うまくいかずに他社に買収された会社(ポッカコーポレーションなど)や、出資した投資ファンドによって社長が解任された会社(すかいらーく)もある。非上場企業の例では、倒産した会社や元のオーナーに買い戻された会社もある。

 MBO、上場廃止発表時の報道では、「これからは好き勝手にやらせてもらう」と答える企業よりも、「いつかは再上場するつもりです」とまじめに答える企業のほうが多い。しかし、実際に社業が発展して再上場を果たした会社は、トーカロ(2年後)とキトー(4年後)の2社しかない。それは上場企業を”降りた”後の経営の舵取りがいかに難しいかを示している。

 経営陣が自己資金だけで上場企業を買収できるケースはまれで、ほとんどは負債の重圧がのしかかり、「自由に経営できる」どころか、当面の資金繰りはどうするか、借金をどうやって返すかなど、金策で苦労している。かつては財務の優等生だった吉本興業も、今はまさにそんな状況に陥っている。

 せっぱ詰まったあげく、噂が現実のものとなり、このビッグネームが日本初の「実質MBOで上場廃止後に倒産の事例」=「安易なMBOで墓穴を掘った悪い見本」として、長く語り継がれることがないよう、ナイスリカバリーを祈りたい。
(文=寺尾淳/ジャーナリスト フィナンシャル・プランナー)

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最終更新:2012/06/25 07:00
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