支援から始縁へ──書簡に綴られた被災者と支援者の交流の記録『忘れない』
#本
2011年3月11日から1年と3カ月、最近では震災関連の報道はめっきり少なくなってしまったが、果たしてそんな中で十分に被災地の人々の声は伝えられているといえるだろうか。また、被災地を思う――支援している人々の声は、どのようなものであろうか。
『忘れない。』(大和書房)は、大学院講師で、「ふんばろう東日本支援プロジェクト」代表の西條剛央氏が預かった被災地からの手紙、被災地への手紙の一部をまとめ、掲載した本だ。同プロジェクトは、各地から被災地への物資支援を募り、現地へ届けるボランティア団体。当初は物資支援だけの目的であったが、礼状などのやりとりをするうちに、手紙を届ける事務局のような存在になっていった。本書は、それら書簡の一部・全39通を掲載している。便箋に書かれた70歳男性の達筆、「まいにち(自転車)のってるよ」と幼児の描いたイラスト入りはがきなど、直筆の手紙には、書いた人の人柄もにじみ出て、その人個人が在ることを確かに示してくれる。
無論、いい話ばかりではない。津波で亡くなった家族のこと、町の景色が変わってしまったこと、高い放射線量により長年住んだ家に住めなくなってしまったことなど、苦境にある被災者を思うと、思わず胸が痛くなる。
仮設住宅に入居している人とそうでない人に対する待遇の違いを訴える人も少なくない。同じ地域に住んでいても、物資、金銭など、あらゆる面で支援格差が生じている。一部の行政では「公平主義」に固執して、人数分ないからといって野菜を配らずにすべて腐らせるというような問題も起きている。
そのような中、気仙沼市に住むKさんの手紙がひときわ胸に沁みる。
「――震災で多くの物を失いましたが、震災がなければ気づかなかったこと、見えなかったことがたくさんあります。皆様方の温かいお気持ちだけで十分暖かい冬が過ごせそうです。本当に困っている人にお届けください」(本文より)
Kさんが苦境にあることは想像に難くないが、「本当に困っている人に……」と他人を気遣う気持ちは、高潔で、深く心を打たれる。
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