「ワイルドだろ~?」キャラ弁の真逆をゆく『ザ・昭和弁当』
#本
キャラ弁が流行り出して以来、お弁当の敷居が高くなったように思う。異様に凝った、リラックマやアンパンマンをこしらえる手先の器用なママたちが脚光を浴び、なんの工夫もないお弁当を子どもに持たせた日には、学校で肩身の狭い思いをさせてしまうこと必至。だが、弁当界には、そんなキャラ弁の真逆をゆく「昭和弁当」というジャンルも存在することをご存じだろうか。
ブロガー・ドカ弁うめさんが作り続けてきた昭和弁当を、レシピ本としてまとめたのがこの『ザ・昭和弁当』(主婦の友社)だ。ドカ弁うめさんが母親の命日に、「母の作ってくれた思い出の味を自分でも作ってみよう」と始めた昭和弁当。そうそう、“昭和”の名の付くものには、こういうちょっとイイ話が不可欠。この、ちょっとイイ話と、“昭和”の威力は絶大で、えらくおおざっぱな盛りつけでも、どう見ても栄養価の低そうなお弁当でも許されてしまう。なぜなら、昭和の母の味だから!
例えば、「ハムエッグ花弁当」はご飯にけずり節、いり卵、ハムの順にのせただけ。「ハムタク弁当」はご飯に焼きのり、ハムカツとたくあんをドカ盛り。「さんまの塩焼き弁当」や「煮魚弁当」はご飯の上に魚を一匹丸ごとのせるもんだから、魚がお弁当箱からはみ出している。とにかく昭和弁当とは、ご飯におかずをのせただけのガチンコ勝負。細かく区画分けされた平成のお弁当とは大違いだ。
そして、それぞれのお弁当のネーミングセンスも捨て置けない。「なんちゃってうなぎの蒲焼き弁当」に、「びっくりえびフライ弁当」「あたりめぇーだのサラッダー弁当」と、微妙なネーミングも、“昭和”の名のもとに許される。「あたりめぇーだのサラッダー弁当」の中身は、適量のあたりめ(さきいかでも可)と、好みの野菜を混ぜたイカ入りサラダ。つけ合わせはやっぱり「前田のクラッカー」だそうだ。
ちなみに、本書に掲載されているお弁当レシピは108。こういったレシピ本は、後半へいくにつれて、ネタ切れなのか少々おかしなレシピが登場することが多いのだが、やはりこの本もそうだった。112ページから始まる、パン系のお弁当のレシピがどうもおかしい。日の丸弁当のお米の部分をなぜか白い蒸しパンで作った「日の丸蒸しパン弁当」。甘いドーナツに、なぜかミートボールや魚肉ソーセージ、たこさんウインナーが入っている「ドーナツ弁当」。これって本当に昭和……?
でも、これでいいのだ。著者のドカ弁うめさんも、作るのが面倒くさいレシピがあれば、「お惣菜を使ったって全然OK。そういうところを無理しないのも、昭和人の懐の深さでやんす」と本の中で語っている。昭和は心が広いのだ。ちょっとばかり盛りつけがワイルドでも、いささかエキセントリックなレシピでも、昭和と言っておけば許される。今後は私も、大雑把なお弁当を作ったときは、「これ、レトロなお弁当だから」と昭和ぶろうっと!
(文=朝井麻由美)
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事