JR、東急…肝入り「駅ナカ保育所」は犯罪、事故密集地帯?
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JR、東急…肝入り「駅ナカ保育所」は犯罪、事故密集地帯? – Business Journal(6月6日)
(「東日本旅客鉄道HP」より)
5月21日、東京メトロ副都心線渋谷駅構内で、53歳の男性が刃物で刺されて重傷を負うという殺人未遂事件が起きた。
意外に思う人がいるかもしれないが、実は鉄道駅は、粗暴犯、凶悪犯の多発地帯である。2008年3月にJR荒川沖駅で起きた、「通り魔的犯行」である連続殺傷事件は記憶に新しい。同月には、JR岡山駅のホームで突き落とし殺人事件も起きている。また、99年9月に連続殺傷事件が起きたJR下関駅は、06年1月に放火されて駅舎が全焼した。今年に入っても、2月22日、渋谷駅で駅ビル「東横のれん街」前の通路で、女性が刃物で刺される事件が起きている。このほかにも、
・96年:JR池袋駅の山手線ホームで立教大学の男子学生が殺された事件(未解決)
・11年:JR高田馬場駅のホームで乗客同士の傷害事件。
などなど、枚挙に暇がない。運悪くそんな粗暴犯や凶悪犯に遭遇しなくても、駅での乗客同士のケンカ、駅員への暴行は、毎日のように繰り返されている。痴漢や迷惑行為も後を絶たず、1日に何万人もの乗降客が行き交う大都市圏の駅は、悲しいかな「子どもには見せたくない行為」で溢れている。
そんな駅という危うい場所に、自分の大切な子どもを預ける保護者が急増している。と聞くと耳を疑うかもしれないが、駅構内や駅に直結した鉄道関連施設に開設される保育所、通称「駅ナカ保育所」が、今、その数をどんどん増やしているのだ。
規制緩和で急増する「駅ナカ保育所」
冒頭の殺人未遂事件が起きた副都心線渋谷駅は、現在は東京メトロだけが乗り入れているが、今年度中に東急東横線渋谷駅がそっくりここに移転、東横線と副都心線の相互直通運転が始まる予定である。すでに東急の子会社が駅を管理し、犯行現場は事実上東急の駅である。その東京急行電鉄も東京メトロも「駅ナカ保育所」を開設している。
東急は、たまプラーザ駅や綱島駅など12カ所で「パレット保育園」などの保育施設を運営。東京メトロは、4月に東西線原木中山駅高架下に「キッド・ステイ」をオープンさせた。同月に東武、西武、京成も相次いで保育事業への初参入を果たしており、先輩格の京急、小田急、京王、相鉄と合わせると関東の民間鉄道会社をほぼ網羅する。関西も阪急、阪神が、すでに参入を果たしている。
荒川沖駅事件が起きた旧国鉄・JR東日本は、96年の国分寺駅を皮切りに駅型保育所の設置を進めており、4月現在49カ所。子育て支援施設を14年までに70カ所、ゆくゆくは100カ所にまで増やすのが目標である。同社は場所を貸すのみで、運営は外部に委託しているが、下関駅事件が起きたJR西日本は03年に子会社・JR西日本交通サービス直営で参入した。「駅ナカ保育室」と銘打った「JRキッズルーム」を京阪神の5カ所で運営している。
なぜ、鉄道会社は、こんなにも保育事業に熱心なのか。電車通勤が多い大都市圏では、通勤の行き帰りに子どもを預ける場所として、駅ほど便利なところはなく、立地条件がいいからだ。しかも保育施設は、「子育て支援」の名の下に、規制緩和がどんどん進んでいる。
かつて認可保育所の設置者は、市町村か社会福祉法人に限られていたが、00年3月に株式会社やNPOにも開放され、定員や資産の条件も緩められた。その後、市町村の財政難で公立保育園の民間委託が進み、政府は民間企業が設置した保育施設にも、公的補助を出す方針を示している。
今年4月には認可条件を市町村が自由に決めてよいことになり、受け入れる子どもの定員や職員配置、最低面積の基準を引き下げたり、園庭基準を廃止した市町村なら、ビル内の手狭なスペースで小規模保育所を開設するといったケースでも、認可が下りる。駅ナカ保育所に限らず、新規参入組にとっては「○○市認可」のお墨付きが取りやすくなったわけだ。
少子化もなんのその。保育は今や、「待機児童解消」という大義名分の下、国の政策の後押しを受けられる「稼げるビジネス」になっており、金融、建設、医療、人材派遣、学習塾など異業種からの参入が相次いでいる。立地条件で勝り、駅やその周辺に空きスペースを持つ鉄道各社が、「今こそビジネスチャンスだ」と目の色を変えるのも無理はない。
駅構内を「おさんぽ」されたら非常に心配
ある警備会社は、「駅の構内は、構造上、死角が多いんです。そのため、防犯カメラの設置台数も他の公共施設よりも多めです」と語るように、確かに柱や曲がり角が多く、案内板や広告などさまざまな設置物があって死角ができやすい。犯罪者にとっては好都合だろう。東京駅では大正から昭和の初めにかけて、政財界の大物を狙ったテロが繰り返し起きたが、犯人はみんな柱の陰の死角に潜んで要人を襲っている。現代には防犯カメラがあるが、過信は禁物だろう。
たとえば誘拐だったら、犯人が幼児をさらって階段を駆け上り、発車間際の電車に飛び乗って逃走されても防止策はない。通路が混雑していて人混みにまぎれたら、なおさらだ。
駅ナカ保育所のなかには、ホームページに改札機を興味深げに眺める幼児たちの写真を載せて、「駅をおさんぽ」とキャプションをつけているところがあるが、本当に駅構内を散歩しているとしたら非常に心配だ。不特定多数の人が出入りする場所は、それなりのリスクがある。また、電車好きの幼児が保育所を勝手に抜け出してホームに上がり、不慮の事故にあう不安もある。
大人同士の犯罪に巻き込まれる危険も、ないとはいえない。冒頭の渋谷駅殺人未遂事件は、午後6時15分頃に起きた。駅ナカ保育所ならちょうど、勤務先から帰る保護者が子どもを迎えに来る時間帯である。
犯罪や事故を心配したらキリがないが、もっと心配なことがある。それは防災で、建築基準法上も消防法上も、保育所への適用基準と鉄道駅への適用基準はまったく異なるのだ。
大地震で、基準が緩い駅舎倒壊の巻き添えに…
建築基準法では、保育所は「特殊建築物(児童福祉施設等)」に該当する。耐火建築物であるだけでなく、採光も、換気も、内装材の不燃性も建築基準法で定められ、細かい基準をクリアしなければならない。一方、鉄道駅は建築基準法第2条で、建築物から駅舎が除外されている。つまり基準自体が存在せず、駅舎が駅ビルになっている場合に限って、商業ビルと同じ扱いになる。
消防法では保育所は「特定防火対象物」に該当し、延床面積に応じて消火器、自動火災報知設備、屋内消火栓設備、スプリンクラーなどの設置が厳しく定められている。しかし、駅舎は「非特定防火対象物」で、特定防火対象物よりも防火設備の設置規定が緩くなっている。
極端な話をすれば、火災や地震が起きたとき、基準が厳しい保育所部分は無事に残っても、基準が緩い駅舎部分が大きな被害を受けることがありうる。駅ナカ保育所の出入口が駅に面した1カ所しかないと、避難しようとした幼児や保育士が、駅の中で犠牲になってしまう可能性もゼロではない。
その「駅舎崩壊」が現実に起きたのが、都市直下型地震の恐怖を見せつけた95年の阪神大震災である。この時は阪急三宮駅、阪急伊丹駅、阪神岩屋駅、阪神西灘駅、JR新長田駅などで駅舎が倒壊した。当時はまだこの地域に駅ナカ保育所はなかったが、もし今、同じ規模の都市直下型地震が首都圏や関西圏を襲ったら、駅ナカ保育所にいる幼児たちはどうなるだろう。
待機児童の問題がどんなに深刻でも、子どもの安全と引き換えにできるだろうか?
03年、JR西日本の駅ナカ保育所「JRキッズルーム」第1号が誕生したJR六甲道駅は、その8年前の阪神大震災の朝、真新しい駅舎が轟音とともに崩壊したことを最後に付け加えておこう。
(文=寺尾 淳 フリーライター/ファイナンシャルプランナー)
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