「おいしい店が繁盛するとは限らない!」お手軽さだけじゃない、駅そばの奥深き世界
#食
鈴木 NREが参入する20年くらい前までは、首都圏のJR駅には地域ごとや路線ごとに異なる駅そば業者が店舗を構えていて、チェーン店の中にも地域性を感じることができたんです。しかしNREを中心とした駅そばの統廃合が進み、平成10年頃にはNREが運営する「あじさい茶屋」が首都圏の駅そばの代名詞であるかのような事態になってしまった。それがおいしければまだよかったんですが、魂が入っていない、うわべだけの味だったんです。ほかの飲食店のチェーンでは他店と味が違うとクレームがきますが、駅そばはその逆で、「味が同じだ!」って客からクレームがくるんですよ(笑)。そのクレームの影響かどうかは定かではありませんが、平成15年頃からNREも画一的な店舗営業から方向転換し、エリアごとや駅ごとに店名を変え、オリジナルメニューの開発に着手していったんです。
――それは一大事件でしたね。ちなみに、繁盛しているお店に共通点ってあるんですか?
鈴木 駅そばは、おいしい店が繁盛するとは限らないんですよ。これは日暮里にある「一由そば」のご主人からいただいたお言葉なんですが。このお店は24時間営業で麺はゆで麺、汁はどす黒い、いわゆるジャンクフード的なもの。立地も悪いんですが、なぜか夜中に行っても繁盛しているんですよ。おそらく、ご主人の人柄が人気の秘訣ではないかと。とくに常連さんには、すごく親しげに接客しているんです。繁盛していないお店のオーナーさんが相談にきたりするらしいですよ。
――駅そばは、お店の人の人柄だと。
鈴木 そうですね。そういう意味では、都内より地方のほうが心が入っている気がします。都内では汁を注ぐにも冷水機みたいなものを使っているお店もありますし、麺の湯切りを機械でやっているお店も増えている。どんどん無機質になってきているんですね。僕は駅そばにノスタルジーを求める部分もあるので、竹製の湯切りを使っていたりすると「おー、ここは!」と思ってしまいますね。
――そんな鈴木さんが、駅そばをプロデュースするとしたら?
鈴木鈴木のは山形の「だし」なんですが、あれは絶対、冷たいそばには合うと思うんですよ。あとはコンビーフの天ぷら。固まりのままでもいいし、生地に混ぜちゃってもいいかなと。それから甘辛味噌は間違いない。実際に家でもよくやるんですが、ゆずこしょうみたいに、かけそばの上にちょろっとのっけるとおいしいんですよ。
――ぜひ食べてみたいですね。では最後に、駅そば研究家としての今後の活動について教えてください。
鈴木 全国各地だいたい行っているんですが、究極は全店全メニュー制覇ですね。一度行ったお店でもメニューは20種類くらいありますし、閉店~開店のサイクルが早くなって、新しいお店もどんどんできている。昨年、九州新幹線が開通しましたが、あのへんはまだ行けてないですし、北陸新幹線も開通するから、そちらにも行かないと……。終わりなき旅ですね(笑)。
●すずき・ひろき
昭和48年、埼玉県生まれ。中央大学文学部卒業。学生時代に旅に目覚め、独自の旅のスタイルを模索しつつ、雑誌などに情報を寄稿する。現在は駅そば・道の駅・スーパー・温泉など、旅から派生するさまざまなジャンルを追究する“旅のスピンオフ・ライター”として活動。著書に『ご当地「駅そば」劇場』(交通新聞社新書)がある。
全国駅そば選手権<http://ashraf.web.fc2.com/>
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