自称ニートがネットで”生活費集め”はOKか!? (前編)
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自称ニートがネットで”生活費集め”はOKか!? (前編) – Business Journal(6月26日)
集めるためのサイトであると、
CAMPFIRE上では謳っている。
混迷の時代を生き抜く若者の生活に取材し、『親より稼ぐネオニート』(扶桑社新書)などの著作を持つ今一生氏が、昨今話題の「クラウドファンディング」をめぐる、あるトピックに疑問を投げかけた。これは、ネットが生み出した新しい生き方なのか、社会を沈下させる禁断の試みなのかーー。
最近、「クラウドファンディング」というwebサービスが人気を博している。個人・団体がプロジェクト内容を公開し、それに共感したネット市民がプロジェクトを実現する必要経費として、資金を提供する仕組みだ。
クラウドファンディングは、切実な社会問題を解決したいとか、楽しいアートを作りたいなど「みんなのために」活動したい志を持つものの、自助努力だけではどうしても困難な際に利用できる便利な仕組みだ。
日本では、東日本大震災の被災者支援のためにこのサービスが重宝され、多くの善意が集められてきた経緯がある。
資金はプロジェクトそのものに投入されるのが原則で、このサービスの草分けである米国のKickstarterでも、プロジェクト起案者個人の生活費に充てる利用は禁じられている。
そんな中、日本のクラウドファンディングのひとつ「CAMPFIRE」(運営:株式会社ハイパーインターネッツ)で、「ニートについての本を書いてるんですが制作費が欲しいです。」というプロジェクトがアップされた。起案者は「pha(ファ)」と名乗る33歳の男性。本人の書いたプロフィールには、こうある。
「日本一のニートを目指す。無職でネットで遊びまくり。インターネットが好きな人が集まって住むという『ギークハウスプロジェクト』提唱者。独学でプログラミングを学び『EasyBotter』『圧縮新聞』『ホッテントリメーカー』などのウェブサービスを多数開発。京都大学総合人間学部卒。できるだけ働かずに生きていきたいです」
集めたphaさんのプロジェクト。
そんなphaさんが求めていた目標額面は10万円。すでにこの額面をクリアしており、最終的に249人のパトロンを集め、支援金63万8614円を調達した(このうち20%はCAMPFIREの運営者が手数料として受け取る)。
ここで、このプロジェクト内容の信憑性や妥当性について、主に2つの大きな疑問が生じる。
ひとつは、phaさんが「ニート」と自称していた点。彼のプロジェクトのページには、病気や障害などの働けない事情は紹介されていない。それどころか、「制作作業が終わったらなにがしかのバイトなどをしてお金を稼ぐことも考えている」と明かしている。彼には働けないほど切実な事情はないのだ。
約2年前の姉妹サイト「日刊サイゾー」の取材で、phaさんは月収を聞かれ、こう答えている。
「だいたい10万円ちょっとくらいです。ブログのアフィリエイトやちょっとしたネットサービスを公開していたり、ネットで本を売ったり。それから時々原稿を書いたりしているのでパラパラと細かい収入があります」
phaさんは仕事をしたくない自営業者であり、ニートでないことは彼自身も、筆者の質問に対して、自分のブログで「確かにその通り」と認めているのだ。
2つ目の疑問は、phaさんが求めたのは「制作費」なのかという点だ。彼は、集めた資金の使い道をこう説明している。
「半年ぐらい前から原稿を書いているんですが、書いているうちにお金がなくなってきて困るようになってきました。文章を書いていると資料として本を買ったりもする。家で作業していると家賃や光熱費や通信費もかかるし、家にずっといると気が滅入るのでファミレスやカフェにも行く。たまには酒を飲んだり焼き鳥を食べたりして気力も補充したい」
書籍を書き下ろす場合、資料代は税申告の際に経費として計上できるし、phaさんのような低所得者の場合は赤字申告で還付金が入り、資料代程度の額面は相殺される可能性が高い。
通常、書籍の制作費といえば、遠方の取材に必要不可欠な交通費や宿泊費などを意味する。在宅でニートの本を執筆する際には、まず関係がない。他のほとんどの経費は生活費だ。「家賃や光熱費や通信費」「ファミレスやカフェ」「酒を飲んだり焼き鳥を食べたり」を「本の制作費」と言いきるには、語弊があるだろう。
彼のプロジェクトを正確に表現するなら、「自営業者ですが、仕事をするのがだるいので貧乏になりました。とりあえず1カ月分の生活費が欲しいです」になる。
「働きたくない」は正当な理由になりうるのか?
phaさんは、「働きたくないという気持ちはそんなに責められることじゃないし、もうちょっと働かないことについてみんな寛容になったら生きやすい社会になるんじゃないか、お金がなくてもインターネットがあれば結構楽しく暮らせる」と書いている。
もっともらしい物言いだが、「『死ぬほど異常に何がなんでも働きたくない』という人は『働けない』とほぼ同じです。そして、単に『働きたくない』とか『だるい』という理由でクラウドファンディングを使っても別に構わない」とも書いている。
バイトのような自助努力を後回しにし、他人が働いて得た金を当てにする。それは彼の自由だ。だが、「制作費」を無制限に拡大解釈するプロジェクトが承認された今、食えないクリエイターが制作費として生活費を求める案件を拒む理屈が立たない。
すると、「ニート」を自称したり、特定個人の生活費にのみ資するプロジェクトを承認した審査基準の正当性を説明する社会的責任が、運営者には生じるのではないか?
その責任を放置すれば、「働けない事情はないけど、働きたくない」という反・良識的なプロジェクトの起案者を矢面に立たせて面白がるだけだ。それは、クラウドファンディング業界が築き上げてきたサービスの社会的価値を貶めることにもなりかねない。
では、CAMPFIREは、どんな基準で新規プロジェクトを審査・承認しているのか?
そこで、CAMPFIREの運営元であるハイパーインターネッツ(東京都港区六本木)に、「どのような形で新規プロジェクト案を打診してくる団体や個人の実情を把握・確認していますか?」「今後、心身ともに健康で、働けない切実な事情を持たず、単純に『だるいから働きたくない』という人が本を書きたいというプロジェクトを打診してきても受け入れていく方針ですか?」など、複数の質問をメールで送ってみた……。
(文=今一生)
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