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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > あの“三島割腹事件”を映画化!
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.173

“三島割腹事件”を若松孝二監督が映画化!『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』

 ARATA時代の井浦新は、おしゃれでクールな印象が強かったが、「まだ見たことのない自分に会ってみたい」という純粋な想いから若松組に飛び込んでいった激情家の一面を持つ。ごく少人数での撮影だった『海燕ホテル・ブルー』の伊豆大島ロケでは、助監督代わりに現場での雑用も引き受け、初めて若松作品に出演する若手俳優には声を掛けて飲み会を開く好漢でもある。『実録・連合赤軍』で新しい自分の一面を引き出してくれた若松監督の期待に応えるため、精一杯の熱演を見せている。自衛隊での演習シーンで奇妙な走り方をするが、これは三島役のオファーを受ける直前に足の骨折で入院しており、無理矢理リハビリして撮影現場に入ったためと思われる。演技力うんぬんではなく、精神力勝負の現場だったようだ。森田必勝役を演じた満島真之介(満島ひかりの実弟)の黒目がちなギラギラした瞳も印象的。彼の一本気な情熱が、井浦のクールなルックスの裏に隠された激情を呼び起こし、男たちの物語はクライマックスへとなだれ込む。

mishimayukio_04.jpg『キャタピラー』(10)に続いての若松
孝二作品への出演となった寺島しのぶ。三島
由紀夫の妻・瑤子を演じる。

 ポール・シュレイダー監督、緒形拳主演の日本未公開映画『Mishima:A Life In Four Chapters』(85)と同様に、本作の三島由紀夫も狂気と血に彩られた一生に一度きりの“聖なる神事”へと突き進む。総監室のバルコニーから自衛官たちに決起を呼び掛けるが、その声はヤジに掻き消されてしまう。でも、そんなことは三島由紀夫には織り込み済みだった。何よりも自分たちが行動することが大事なのであって、成功するかどうかは問題ではなかったのだ。自衛隊にはすでに武士道精神を持つ者がいないことを確認した三島由紀夫はおのれが武士としての死に様を見せることで、自分自身の物語の感動的なグランドフィナーレを迎える。その介錯を務めるのは、三島由紀夫が愛する美しい若者・森田必勝だ。

 この5月、本作を携えて41年ぶりにカンヌ映画祭に参加した若松監督は、現在76歳。2011年には『11.25自決の日』『海燕ホテル・ブルー』だけでなく、中上健次原作『千年の愉楽』(今秋公開予定)も撮り上げている。今まさに、人生のクライマックスを謳歌しているといっては失礼だろうか。三島由紀夫は自らが潔く散ることに美を求めたが、若松監督は貪欲に生き抜くことで生の輝きを放っている。三島由紀夫の死と若松孝二の生が激突する。スクリーンからヤケドしそうなほどの熱い火花がほとばしる。
(文=長野辰次)

mishimayukio_05.jpg
●『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』
監督・脚本/若松孝二 企画協力/鈴木邦夫 脚本/掛川正幸 出演/井浦新、満島真之介、岩間天嗣、永岡佑、鈴之助、渋川清彦、大西信満、地曳豪、タモト清嵐、中泉英雄、長谷川公彦、韓英姫、小林優斗、小林三四郎、笠松伴助、小倉一郎、篠原勝之、吉澤健、寺島しのぶ 
配給/若松プロ、スコーレ 6月2日(土)よりテアトル新宿ほか全国公開 <http://www.wakamatsukoji.org/11.25>
(c)若松プロダクション

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