少女から「大きなお友達」まで魅了する、シリーズの底力に触れる『プリキュア シンドローム!』
#本
現在放映中の『スマイルプリキュア!』(朝日放送系)で9年目を迎えたプリキュアは、女児向けアニメとしては異例の長期シリーズとなっている。これまでの作品を振り返ってみると、シリーズの転機となったのが、1作目の「ふたり」(ないし3人)から大きく人数を増やした、2007年の『Yes!プリキュア5』であることは疑いない。本書『プリキュア シンドローム!』(幻冬舎)は、全シリーズを概観するのではなく、『Yes! プリキュア5』と『Yes! プリキュア5 Go Go!』という「プリキュア5」シリーズ2作の魅力を、スタッフやキャストの言葉で伝えることを目指すインタビュー集である。そこから3作品を経た後の『スマイルプリキュア!』(12年2月より放映)が、キャラクター配置やデザインなど、多くの点で意識的に「プリキュア5」路線を踏襲していることを考えると、まさにちょうどいいタイミングでの出版といえるだろう。
25人のスタッフやキャストへのインタビューは、600ページ弱という読み応えのあるボリュームとなって現れた。けれども、著者の加藤レイズナが「プリキュア愛」を全面的に押し出していく構成は、人によっては評価がわかれるところかもしれない。取材でも、距離を置いた公平な記録性よりは、感情移入をベースにした思い入れが際立ち、数々の脱線や暴走もそのまま残されているからだ。
だが著者のアプローチが、ほかの類書にはない独特の魅力を持つことは確かである。現場と密接なコミュニケーションを持つことで知られる鷲尾天プロデューサーを訪ねるところから始まる本書は、集団制作としてのアニメの現場の熱気を探り当てようとする著者の「冒険の旅」とみなすことができる。大きなクエストを終えるたびに、鷲尾Pとの対話が入るという構成が、本書にひとつのリズムを生み出しているのだ。インタビュー素材を取捨選択するのではなく「全部盛り」を選ぶという意識的な方針は、プリキュアの多層的な魅力に取り組む上での著者のスタンスを示している。
このスタンスは、女児やその親と並び、プリキュアを支えるもう一つの支持層である「大きなお友達」をも惹きつける理由の一端を明らかにしている。この名称は、しばしば女児向け作品の性的消費を意味する蔑称として用いられがちであるが、ファンの目線はそうした消費にはとどまっていない。そもそもシリーズ1作目の『ふたりはプリキュア』が幅広い人気を獲得することができたのは、「女の子だって暴れたい」というコンセプトの秀逸さに由来していた。セリフや世界設定に至るまで徹底された、暴力表現に対するさまざまな配慮を、妥協のない格闘場面と見事に両立させたのである。さらに、女児向け作品において必須とされていた恋愛要素の織り込み方も、プリキュア以前の既存作に比べると、かなりスマートだ。もちろん、メイン視聴者である女児から離れることがないように、細部についてもかなり周到な配慮がなされていることは前提の上で、加藤レイズナ自身の感情移入の仕方が物語っているように、プリキュアたちの活躍は、性別や年齢を超えた没入を可能にする懐の深さを持っているのだ。
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