スウェーデン「非実在青少年」裁判の当事者を直撃 過剰な表現規制が生み出す冤罪の構図とは
#出版 #児童ポルノ #青少年育成条例 #非実在青少年
「スウェーデンで唯一、日本の漫画を翻訳出版していたボニエ・カールセン社から『児童ポルノで有罪になるような人とは仕事はできない』と切り捨てられてしまいました。出版社からの支援? そんなものはまったくありません。弁護士も教会の牧師と相談して自分で依頼したんですから。今は、高校で教師の仕事もしていますよ」
と、ルンドストローム氏は怒りを隠さない。この間、スウェーデンの記者協会や漫画振興会、作家や写真家の団体なども氏への有罪判決を批判している。また、政権与党の穏健党に属する国会議員のマリア・アブラハムソン氏が「人々の法律に対する尊敬を危うくする」と有罪判決を非難しているそうだ。
■警察の児童ポルノ担当者まで有罪を非難
さらに驚くのは、ルンドストローム氏を逮捕した警察関係者からも有罪判決を非難する声が上がっていることだ。
「5月16日に最高裁の第一回目の裁判が開かれたのですが、その前日、スウェーデン最大手新聞『Dagens Nyheter』で、スウェーデン警察の児童ポルノ担当のトップが『性的虐待の被害に遭っている子どもたちを助けなければならないのに、イラストを捜査対象にしている場合ではない。被害に遭っている子どもたちと、空想のイラストで描かれたものを同列に扱うのは、実際の子どもに失礼』と発言したんです。警察は、私の味方ですよ」(ルンドストローム氏)
最高裁が無罪判決を出す可能性も高そうだが、依然として予断を許さないのが現状だ。
「有罪にされても、スウェーデンが愚か者の国だったというわけですから、あまり気にしません。(有罪になったら)日本に行くことにします」(同)
王族も参加する、子どもに対する商業的な性的搾取の根絶を標榜する国際組織・エクパット(その日本の組織「エクパット東京」は、いわゆる「規制推進派」の牙城として知られる)の本部もあるスウェーデンでは、子どもを守ろうとする意識が「子ども=神」のごとく過剰で、結果的に子どもを守るならば表現の自由を制限しても構わないとまで考える人々が多いという。そうした中で、スウェーデン最高裁の判断の行方が注目される。当のルンドストローム氏も、判決を心待ちにしているのかと思いきや、実はそうではない。
「それよりも、娘の親権裁判がまだ続いているので、そちらのほうが大変なんですよ」(同)
日本でも「児童ポルノ」の所持を禁止し、「児童ポルノ」の定義を漫画にまで広げたならば冤罪を招くという主張が、規制強化に反対する人々からなされている。そうした危惧が、スウェーデンではすでに実際に起こっているのだ。
(取材・文=昼間たかし)
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