窮屈な社会のスキマを見つけ出せ!『秘密基地の作り方』
#本
子どもの頃、誰もが一度は遊んだことがある秘密基地。学校の片隅や、下校中の雑木林、誰も見向きもしない原っぱを舞台に、子どもたちは大人に邪魔されない楽園を作りあげてしまう。そんな秘密基地に注目するのが、建築家の尾方孝弘氏だ。福岡の建築事務所MO・Architectの代表であり、「日本キチ学会」なる組織を設立した彼が、この度『秘密基地の作り方』(飛鳥新社)を上梓した。
「秘密基地」というテーマだけで、一冊の本が作れるものなのか……。余計な心配をしながらパラパラとページをめくってみると、場所の選び方から、必要な道具、そしてほかの人々が作り出した個性的な基地の紹介など、秘密基地を切り口にさまざまな内容が盛り込まれている。「こんな基地を作ったな〜」「もう一回作りたいな〜」と、懐かしい“あの頃”へとタイムスリップしてしまう良書だ。
……とまあ、本書の表層はさておき、本稿ではその裏にある意図を汲み取りたい。というのも、本書は本屋のサブカルコーナーに陳列する「変わったテーマを面白おかしく紹介した一冊」にとどまらず、意外(?)とマジメに「秘密基地」が持つ可能性について考えているのだ。
本書にもコラムを寄せており、東日本大震災以降、熊本に「新政府」を作った坂口恭平は、“建てない”建築家として知られている。ホームレスの生活に範を得て建築家としての活動を開始した彼は、『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』(太田出版)を刊行し、「0円ハウス」なるものまで生み出した。建築家の仕事は、家を建てることだけではない。建物と人との関係を考えながら、「どうしたら人が心地よく生活を送れるのか」を考えることもまた、建築家の仕事である。秘密基地を切り口とした尾方の狙いも、実はこの部分にあるのではないか。
雑木林の中や、団地の一角、橋の下など、街にはさまざまな「スキマ」が存在している。それらの「スキマ」は本来、建築家が意図した範囲の外側に存在するものだ。そんな「スキマ」を狙って秘密基地は建築される。正しい場所に作られる秘密基地なんて、“秘密”でもなんでもない。自分たちだけの特別な場所は、社会の常識からは外れた部分にあるのだ。だから、ちょっと大げさに言うと、秘密基地を作るためには、社会の外側に身を置かなければならない。
さらに、秘密基地を作ることは「身の回りにある世界を自分の力だけで作りかえること」ではないかと本書は記す。
「それは、私たちが生きていく上でとても大切な力ではないでしょうか。それさえあれば、たとえこの社会の仕組みが完全に壊れてしまうようなことがあっても完全に絶望する必要はないのですから」(本文より)
昨年、日本は“この社会の仕組みが完全に壊れてしまうようなこと”を経験した。僕らはそれに戸惑い、右往左往し、デマにも翻弄されながら、何が壊れてしまったのか、何が壊れていないのかを議論してきた。そしてもう一度、「この社会の仕組み」をみんなで考えようとしている。
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