「ニュースからこぼれ落ちたものに人間性が宿る」福島でカメラを回す松林要樹のドキュメンタリー論
#映画 #インタビュー #東日本大震災
松林 「『相馬看花』の第二部は、馬と人間の関係について描くつもりです。第一部でも触れましたが、戦後の日本において高度成長期は大きな転機だった。福島では昭和30年代くらいまで、馬が荷物を運び、田畑を耕すという人間と馬が共生する生活が続いてきていたわけです。今も南相馬では多くの元競走馬が飼われていますが、自分のところで穫れた米ぬかを食べさせていた高度成長期以前の生活とは大きく変わり、買った飼料を与えている。また、高度成長期は日本各地に原発が建てられ、効率化がどんどん進んでいった時代でもある。効率化の代わりに、何か失ったものがあるんじゃないかと思うんです。生産性や効率性だけでなく、他にも大事なものがあるんじゃないかということを、もう一度考え直したい。そのことを説教臭くならないように、どう映像として見せるかですね」
受賞した松林監督の渾身のデビュー作『花
と兵隊』。5月19日より、ついにDVD発売
が始まる。(C)2009 Yojyu Matsubayashi
『花と兵隊』は撮影取材の合間に懸命にアルバイトをしながら、製作費を捻出した。自主制作で、しかも長期取材を要するドキュメンタリーを撮り続けるのは至難の道程だ。
松林 「アルバイトをしながらの取材は、正直いって厳しい。『相馬看花』の第一部は南相馬にいち早く入ったことで、空き巣被害の状況などをニュース映像として売ることで製作費に充てることができました。第二部以降もそこはなんとかうまく考えてやっていきたいと思っています。テレビ局や制会社からお金をもらって撮影を依頼されれば、サラリーマンじゃないですけど割り切って取り掛かれる部分があるんですけどね。自分の時間を割いて、映画になるかどうか保証もない状況の中で突き進んでいくのは難しい。相手の心の中に踏み込んで取材することもあるわけです。ある意味、製作費うんぬんよりも、作品になるかも分からない状況の中で、相手に心を開いてもらえるかどうかということのほうが大きな問題です。どうやって人間関係を作っていくのか、信頼関係を結んでいくのか。相手には何のメリットもないわけです。特に今回みたいに、先の見えない厳しい現場で、カメラを相手に向けるのは辛くなります。ドキュメンタリーなんか撮るのはもうやめようかと、ときどき考えてしまいます。この葛藤は多分、ずっと続くでしょうね。でも、自分にできることをやるしかない。今の自分にできることをやるだけですね」
(取材・文=長野辰次)
『相馬看花 第一部 奪われた土地の記憶』
監督/松林要樹 配給/東風 5月19日(土)より福岡市KBCシネマにて先行上映、5月26日(土)よりオーディトリウム渋谷ほか全国順次ロードショー<http://somakanka.com>
『花と兵隊』
松林要樹監督の劇場デビュー作。太平洋戦争中に19万人の日本将兵の命が散ったビルマ戦線で、終戦後も日本へ戻らなかった6名の未帰還兵たちの現地での生活を約3年間にわたって追った。タイトルにある“花”とは、未帰還兵たちが現地で出会い、結婚した妻たちのことを指している。
監督・撮影・編集/松林要樹 編集/辻井潔 プロデューサー/安岡卓治
発売元/安岡フィルムズ、3Joma Film、東風 販売元/東風 価格/一般セル版5040円(税込) 5月19日(土)より東風online shop、『相馬看花』上映劇場にて発売開始 <http://tongpoo-films.shop-pro.jp>
●まつばやし・ようじゅ
1979年福岡県生まれ。日本映画学校(現・日本映画大学)に入学し、原一男、安岡卓治が担任するゼミに参加。卒業後、東京の三畳間とバンコクの安宿を拠点に、タイ・ビルマ国境付近に残った未帰還兵6名とその家族を長期取材したドキュメンタリー映画『花と兵隊』(09)を発表。第一回田原総一朗ノンフィクション賞奨励賞を受賞。2011年には森達也、綿井健陽、安岡卓治と共に『311』を共同監督。著書に『ぼくと「未帰還兵」との2年8ヶ月』(同時代社)、共著に『311を撮る』(岩波書店)がある。
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