もしサブカル界の売れないアイドルライターが大槻ケンヂの『サブカルで食う』を読んだら
#本 #インタビュー #大槻ケンヂ
大槻 それは、本書で書いている“才能と運と継続”なんですよ。才能と運は自分ではどうしようもないけれど、継続することは誰でもできるので、継続すれば誰でも「中の下」にはなれますよ。中の下でも大したもんですよ。そこまでたどり着かない人だっているから。で、続けていればきっとそれをあきらめなきゃいけない時期が来るんだけど、自分で3回は辞め時を考えて、1回目、2回目、3回目……とずるずる続けて、気づくと40歳を越えている。そうすると、周りも「あの人は、あぁいうふうにしか生きられないんだ」と認めてくれて、気づけば、死んでいるんですよ。
小明 なんですか、そのラスト……。ちなみに、オーケンさんの辞め時はどんな感じだったんですか?
大槻 僕はデビューが早くて、22歳くらいの時にいきなり売れちゃって、2~3年後には武道館でやってたんだけど、当時は有名人に対する世の人たちのリテラシーが非常に低くて、ひどい目に遭ったの。もうインドを放浪しようかなって思いましたよ。あと、ノイローゼで心を病んでた時は死んじゃおうかなって思ったし、筋肉少女帯の活動を休止している時は、いいこともあったけど、辛いことも多かったんですよ……。地方のライブハウスでやった時にね、ホテル代もないからしょぼいホテルに泊まったら、ロビーがもうロビー兼食堂で、肉体労働者がカレー食いながら宴会していたの。それで、打ち上げに行こうと思ってフロントにキーを渡したんだけど、帰ってきたらフロントが無人で、渡したキーがテーブルにズラーッと並べてあるんだよ。お好きにどうぞ。泥棒入り放題。それを見た時に、「あれ? 俺は何をしてるの?」と思って。そのへんが辞め時だったのかなぁ。大したことないねぇ。
小明 なんか、聞いているだけで虚無感に襲われました……。その時期は、ほかにどんなことをされてたんですか?
大槻 しょぼいホテルに泊まっていたころでも、小説は超たくさん書いていたから、編集さんからは「先生」なんて呼ばれていたよ。ただ、あのね、大阪の某ライブハウスはね、お金がある時はライブハウスの横の会議室をとってくれるの。それで、お金がない時はライブハウスの裏にある楽屋という名の変なスペースで、さらにバンドがいっぱいいる時はただの荷物置きに押し込まれるの。その時はアニメタルと対バンで、俺らはその狭い物置でキャベツの箱とかビール瓶を入れるケースを椅子にして、悲しく座っていたら、編集の人が「先生!」とか言って入ってきたの。先生は物置でプラケースに座っているんだよ? サブカルとか関係ないかもしれないけど、山あり谷ありというか……もっと、華やかなこと言おうよ! そうだよ! 僕は就職もしないで、好きなことだけやってきたんだよ! これは華やかじゃないですか!?
小明 なんで、就職しようと思わなかったんですか?
大槻 怖かったの。社会に出るのが怖くて怖くてたまらなくて。まず、中学に入るのも怖くてたまらなかったの。『柔道一直線』ってドラマでさ、桜木健一とかが他校の生徒といっつもケンカするじゃない。中学校ってそういう場所なんだと思ったら、怖くて怖くて。高校に入ったらもっと怖いだろうと思って、その先にある就職って……。
小明 もう、怖いことしかないですね!
大槻 まだ「24時間働けますか?」みたいな、働くことが美徳な時代だったし、就職したら、なんか研修に行かされたり、上司とのつきあいもあったりして……怖すぎるよ。つまり、俺がなんで就職しないで好きなことだけやってきたかっていうと、好きなことしかできなかったんですよ。アルバイトとかも、やってできちゃう人っているじゃない?
小明 いますね! アルバイトで仕事がちゃんとできた人なら、社会に出ても多分大丈夫な気がしてます。私はファミレスでバイトしてたんですけど、あらゆる皿を割り、あらゆる水をこぼし、トイレに行ったお客さんの荷物を忘れ物と勘違いして、荷物を抱えて外に走り出たことがあります。店長が鬼の形相で「早く戻して! 早く!!」って走ってきました。
大槻 ダメだけど、ちょっといい人じゃない(笑)。僕もコンビニはあまりにできなくてクビになったんだけど、バイトのシフトの「大槻」って名前を書かれるべきところに、えんぴつで「ダメな奴」って書いてあったの。ダメだったの。
小明 あはは! それはもう社会に出て、まっとうな仕事をしようという発想にならないですよね。
大槻 本にも書いたけど、ファミレスの皿洗いも1回でつらくなって電話して「向いてないんでぇ、辞めさせてくださいぃ」って言って。そしたら「1日で辞めるなんて聞いてないよ!」って言われて、「でもぉ~僕も1日で辞めちゃいけないっていうのは聞いてないんでぇー!」って言って。本当に「ダメな奴」だったの。こんな奴の上司になった人がかわいそうだと思った。だから、モラトリアムを長くしたかったんです。そしたら、46歳になっちゃった。
小明 えっ! まだモラトリアム!?
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