就職氷河期、本当の理由は高すぎる大卒初任給?
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就職氷河期、本当の理由は高すぎる大卒初任給? – Business Journal(5月11日)
新入社員にとって、社会人になった実感も持てるのが、うれしい初月給。厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、昨年の大卒初任給の平均は20万2000円(額面)。前年比2.3%増で初めて20万円の大台に乗った。今年は景気が回復基調にあり、調査平均が20万円台を再び割り込むことはないだろう。
だが、喜びに水を差すようでもあえて問いたい。初任給20万円は高すぎないか?
今年4月の平日は20日間。ということは日給1万円。就業時間が9時から5時までで、休憩が1時間とすると、実勤7時間で割ると時給は1428円になる。今どき、そんなボロいアルバイトがどこにある?
厚生労働省のモデル年金は月額23万1648円(昨年度)だが、これは夫婦2人分の支給額。妻の国民年金分6万6008円を差し引くと、夫1人だけでもらえる金額は16万5640円しかない。
「プレジデント」(プレジデント社/07年12月号)によると、世界の主要都市に勤めるサラリーマンの、ボーナスを含まない平均月収は、先進国でもイタリア・ローマが19万200円、韓国・ソウルが17万9500円で20万円を割る(円換算、額面)。
つまり、日本の大卒新入社員の初任給は、ボロいアルバイトの時給よりも良く、モデル年金支給額1人分よりも良く、平均的なイタリア人や韓国人の月給よりも高いのである。
会社は、新入社員1人に月25万〜30万円を注ぎ込む
初任給を受け取った新入社員が、「会社は右も左もわからない私に20万円も使う」と思ったとして、その謙虚さは買うが金額は間違えている。20万円ではなく、22万8682円だ。なぜなら企業は、社員の各種社会保険料も負担しているからだ。
<社員の月給に対する、会社の保険料負担分>
厚生年金 8.206%
健康保険 4.985%(協会けんぽ/東京都)
雇用保険 0.85%
労災保険 0.3%(その他の各種事業)
合計 14.341%
月給20万円の場合、会社は20万円×14.341%=2万8682円を、月給以外にその社員に払っていることになるのだ。そのほか、通勤交通費も支給するし、財形貯蓄、厚生年金基金、社員食堂の利用、共済会費といった会社負担分が発生する。さらに独身寮や借り上げ社宅の場合、それだけで会社負担は月数万円は下らないだろう。
福利厚生だけでなく教育研修にもカネがかかる。新入社員の入社前後の1人当たり平均研修費用は20万8989円(産労総合研究所の調査)で、月額換算で1万7415円だ。
以上をトータルすれば25万円突破はまず確実で、福利厚生が手厚い会社、教育研修に熱心な会社なら30万円を超えるケースもあるだろう。だが、仮に30万円としても、初任給はその3分の2を占め、やはり大きい。
初任給を5万円下げれば、就職氷河期は終わる?
もし仮に、初任給の25%の5万円がカットされて15万円になったら、どうなるだろうか。前出の厚労省の調査によると、大卒男子の初任給が15万円を超えたのは1988年で、バブル絶頂の少し手前だった。当時とは物価も社会保険料も違うので単純比較はできないが、今でも1人なら月15万円の給料で生活できないことはない。
初任給が15万円になり、会社が新入社員1人に25万円かけたのが20万円にダウンしたら、同額の予算で採用できる人数を25%増やせる。月1000万円の予算なら、採用できる人数が40人から50人に増える。
「採用の25%増」がどれぐらい大きなインパクトかというと、みんな入りたがる1000人以上の大企業の求人総数15万2400人が19万500人に増え、民間企業就職希望者数に対する求人倍率0.65は0.81に改善し、前回のピーク0.77(08年、09年3月卒)を超える。(リクルートの「ワークス大卒求人倍率調査/2012年3月卒」より)。
初任給を下げれば、多くの学生を苦しめる「就職氷河期」は一気に雪解けを迎える。学生にとっては、同期の仲間につらい思いをさせても自分は20万円ほしいか、15万円で我慢して仲間を助けるか、という選択になる。
韓国の「初任給ワークシェアリング」の失敗
初任給を下げて採用を増やすという「初任給ワークシェアリング」を、実際に実践してみせた国がある。韓国である。
国民ひとり当たりの所得(GNI)と比較した大卒初任給(08年)は、日本の0.6倍、アメリカの1.2倍に対し韓国は1.3倍もあり、「大卒の初任給は高すぎる」という批判が韓国政府に寄せられていた。日本の経団連にあたる韓国の全国経済人連合会(全経連)は09年2月、政府の意向を受けて「雇用安定に向けた経済界発表文」を発表し、大卒初任給を削減する代わりに、新規採用・インターン採用を増やすワークシェアリングに乗り出す。全経連所属の民間企業30大グループに最大28%の初任給削減を要請し、サムスン、LG、現代、SKなど8グループがこれに応じ、採用数を当初予定よりも増やした。
だが、この3年前の韓国の試みは「不徹底で効果が薄かった」という声がもっぱら。全経連の要請を受けてもロッテ、現代自動車、韓進など13グループが削減を拒否し、様子を見ていた他社もそれにならった。削減した企業も、ほとんどは短期間で元に戻している。要請を拒否した企業は「社会的弱者の大卒新入社員に犠牲を強要するな、という非難の声を無視できなかった」「政策と歩調を合わせた全経連のやり方には最初から無理があった」と、当時を振り返る。
初任給を20万円もらう新入社員が社会的弱者なのかという議論はともかく、やるならやるで産業界が完全に足並みを揃えるか、政府が最低賃金法ならぬ「最高初任給法」を制定して、税務署がチェックし、違反企業に罰則を科すぐらいのことをやらなければ「初任給ワークシェアリング」はうまくいかないことを、韓国の失敗は教えてくれる。
(文=寺尾 淳 フリーライター/ファイナンシャルプランナー)
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