やっぱり猫が好き?『かもめ食堂』監督最新作『レンタネコ』
#映画
ゴールデンウィークの余韻を惜しみつつ、日常に返る5月中旬。今週紹介する新作邦画2本はいずれも、日々の暮らしの中でつい忘れがちな感覚や感情を思い出させてくれる、ほどよい優しさと温かさ、そして希望が込められた作品たちだ。
5月12日に封切られる『ポテチ』は、伊坂幸太郎の同名中編小説(新潮文庫刊『フィッシュストーリー』所収)を中村義洋監督が映画化したコミカルな人間ドラマ。仙台の街で生まれ育ち、空き巣を稼業にしている今村(濱田岳)は、仕事中にたまたま自殺を思いとどまらせることになった若葉(木村文乃)と同棲中。2人がプロ野球選手・尾崎のマンションに侵入していたとき、尾崎に助けを求める少女の電話に今村が応対したことで、事態は思わぬ方向へと転がり始める。
『アヒルと鴨のコインロッカー』(2007)、『ゴールデンスランバー』(10)など仙台を舞台とするヒット作を送り出してきた伊坂&中村の強力コンビが、震災直後に「被災地から想いを届けよう」と動きだし、過去作を支えてきた地元サポーターたちと共に仙台でオールロケを敢行。平凡なようで少しズレている都市生活者たちの、奇妙だがどこか心地よいつながり、そこから生まれる意外な展開を、温かいタッチで描き出した。大切な人を思いやる気持ち、希望を捨てずささやかな奇跡を願い続けることの意味が、68分の本編を見終わった後にジワリとしみる感動作だ。
同じく5月12日公開の『レンタネコ』は、『かもめ食堂』(06)、『めがね』(07)などでナチュラルな女性たちを取り上げてきた荻上直子監督の最新作。なぜか猫に好かれるサヨコ(市川実日子)は、猫たちを乗せたリヤカーを引いて川沿いの土手や市街を回り、寂しい人たちに猫を貸し出す「レンタネコ」業を営んでいる。夫と愛猫を亡くした老婦人、娘から疎まれていると嘆く単身赴任の中年男、話し相手がいないレンタカー店の受付嬢など、サヨコはさまざまな人に出会い、彼らに猫を貸し出す。そんなある日、中学時代の同級生で虚言癖のある吉沢(田中圭)と偶然再会し、猫を借りたいとの頼みを珍しく断ったサヨコだったが……。
飾らずに我が道を行く現代の女性像、というテーマで一貫している荻上監督の作品世界に、『めがね』にも出演した市川実日子の中性的な佇まいと、幼さ・達観・秘めた意志が奇妙に同居した表情が見事にハマッている。猫好き、動物好きなら愛らしい猫たちの姿を眺めているだけで癒やされるだろうが、もちろんそれだけではない。猫を“媒介”にして、都市生活者たちがゆるやかにつながっていく様子を、本作もまた丁寧に描いている。強くて固い“絆”も確かに重要だけど、ほんわかとソフトな支え合いもやっぱりいいよね、とあらためて実感させてくれる快作だ。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『ポテチ』作品情報
<http://eiga.com/movie/57065/>
『レンタネコ』作品情報
<http://eiga.com/movie/57710/>
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