JAL機長、血まみれ骨折でもフライトするこれだけの理由
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JAL機長、血まみれ骨折でもフライトするこれだけの理由 – Business Journal(4月25日)
日本航空(JAL、植木義晴社長)をめぐっては、マスコミは経営の神様・稲盛和夫名誉会長(京セラ創業者)による”再建美談”一色だが、行き過ぎた利益至上主義の刷り込みとモノ言えぬ雰囲気が社内に広がった結果、「空の安全」さえ脅かされているとの声もささやかれている。国土交通省も事態を注視しており、株式再上場に影響が出る恐れもある。
まず、”再建”の一環として行われたJALパイロットに対する整理解雇の是非をめぐる裁判を見てみよう。3月29日に判決が出されたこの裁判で東京地裁(渡邉弘裁判長)は、解雇を有効と認める判決を言い渡した。「会社の言いなり」(山口宏弥原告団長)とパイロットらが強く反発する同判決には、「空の安全」を軽視するという致命的な欠陥がある。
裁判所が「想定外」と言う事態が、すでに起こっていた?
会社更生手続き中の整理解雇が争われた初の事件として、労働問題や事業再生に携わる専門家はもちろん、広く社会の注目を集めたJAL裁判だが、航空関係者の間では、「体調不良による休職を基準とするクビ切りが、どう判断されるか?」という点が、ひそかな関心を呼んでいた。
「裁判で原告側は、体調不良を正直に申告して一時的に休んだ人を解雇するなら、健康状態を会社に正直に申告することが難しくなり、『空の安全』を脅かすと主張しました。しかし渡邉裁判長は、『(そうした)事態はにわかに想定し難い』と切って捨てたのです」(原告関係者)
実際に判決文には、「多数の乗客乗員の生命や財産を預かる航空輸送に携わる者として高い職業倫理を有する運航乗務員や航空会社の産業医が、(略)運航の安全に対する脅威となるような判断を行うといった事態はにわかに想定し難い(略)」と書かれている。パイロットらは、高い職業倫理を持っているから、たとえ自分がクビを切られる恐れがあっても、健康状態を正直に申告し、健康に問題があったら安全優先の判断をするはずだ、というのだ。もちろん、そうあってほしい。
だが、実際にはこの判決が出る3カ月近くも前に、現場ではこの「にわかに想定し難い」ことが起きていた。
それが、1月2日の旭川発羽田行1116便で起きた、肋骨を骨折した機長が無理を押して航空機を操縦した「骨折フライト事件」だ。この事件について、「フライデー」(講談社/2月23日号)の直撃取材を受けた稲盛名誉会長は「聞いていない」と答えているが、事件発生の背景には何があるのだろうか?
まず、複数のJAL関係者の話を総合すると、事件の経緯はこのような具合だ。機長には乗務前、機体の周りを歩いて異常がないか点検する任務がある。1116便のK機長はこの出発前点検の際、凍りついたエプロン(飛行場内の駐機場所)で転倒して右脇腹を強く打ち、顔面も負傷して血を出した。
ところがK機長は、「大丈夫だから」と言い残してコックピットに乗り込んだのだ。旭川から羽田までは2時間弱。何事もなく着いたのは、ほんとうに幸運だった。着陸後、同機長は激しい痛みでボーディングブリッジ(ターミナルビルから旅客機に、乗客・乗員を乗降させるための設備)で倒れ込む。機長は、同僚に自家用車を運転してもらい、新浦安にある自宅近くの大学病院に担ぎ込まれ、そこで「肋骨骨折」と診断され、入院したのだ。もし激痛がフライト中に起きていたらと思うと、背筋が寒くなる。
しかもJALは、この事件を隠していたというのだ。
「会社は2カ月以上もこの件を公にせず、国交省にも20日以上たってから、『フライト中は痛みが引いていたから、問題なかった』と報告したのです」(JAL社員)
血まみれ機長を飛ばせた理由とは?
国交省通達によれば、航空会社は、機長の健康を常時把握し、問題があれば、躊躇なく安全を最優先して乗務を止めなければならない。そして機長には、自らの健康状態を会社に申告することが義務づけられている。
ではなぜ、K機長は無理をしたのか? 渡邉裁判長は否定したが、伏線は2010年の大晦日に強行された165人の整理解雇にあったのだ。解雇されたJAL元パイロットは「『直近の病欠・休職』を理由のひとつにクビ切りが行われたため、パイロットが体調不良を正直に申告しにくくなったのです」と語る。また、あるJALの幹部は、「今回の解雇は、はっきり言って禍根を残した。運航本部としても唯々諾々と受け入れたわけではない」と悔やむ。
もの言えぬ風潮に拍車をかけたのが、「利益が第一」と教える「JALフィロソフィ」と、京セラのアメーバ経営を持ち込んだ「部門別採算制」だ。
「旭川空港には交代要員のパイロットがいなかったため、搭乗予定パイロットのケガ=欠航となってしまう。1116便の機長は、社内では『利益第一』を推進する管理職に過ぎないので、売上を落とす欠航を言い出しにくかったのでしょう。1便1便の収支が社内に掲示され競争が煽られているのも、『安全のために飛ばない』という判断を難しくしています」とK機長の同僚機長は心中をおもんぱかる。
別の機長も、「何かあっても、現場が『飛ばさない』という判断をするのが厳しい。先日もエンジンにリミットアウト(修理しなければ飛べない傷)があったのに、何日も報告されなかった。ミスを報告しにくい雰囲気になっている」と明かす。
10 年1月の会社更生法適用申請後、官民ファンド・企業再生支援機構の下で経営再建中であるJAL。同社は2月、12年3月期通期の営業利益予想を従来予想比400億円増の1800億円に上方修正し、過去最高だった11年3月期(1884億円)に近づく見通し。累積損失解消も視野に入ってきたと言われている。
たしかに、稲盛氏の下でJALは、大幅な路線廃止・縮小、不採算事業の整理、リストラを大胆に進め、財務はピカピカになったといえよう。だが、万が一にも大事故が起きれば、すべては一瞬にして水泡に帰す。JALは再上場の前に、「安全なくして、利益なし」の原点を思い出すべきではないか。
(文=北 健一)
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