『あんぽん』著者・佐野眞一が語る「“うさんくささ”が生んだ孫正義のカリスマ性の本質」
【「サイゾーpremium」より】
「週刊ポスト」(小学館)の連載時より大反響を得た、ソフトバンク・孫正義の評伝『あんぽん』(同)。ノンフィクション不毛の時代といわれる中、版を重ね、今や15万部を達成、現在も売れ続けているという。毀誉褒貶の渦の中、常に注目に晒される孫正義という人物に肉薄した同書の著者・佐野眞一氏に、”孫正義の本質”について聞いた──。
──小学館の編集部によると、読者からは「孫正義を嫌っている人にこそ読んでほしい」という声が盛んに寄せられているそうです。佐野さんは、この『あんぽん』という本について、「孫正義のうさんくささの研究である」と記していますが、個人的には孫正義氏に対する世間のイメージだと考えています。
佐野 なぜ我々が孫正義にうさんくささを感じるかというと、それは成り上がりだからとか、在日だからというだけでは片づけられない。そういう成り上がりが、通信や国家の中枢に食い込もうとしているということもうさんくささの一要素だし、そのくせソフトバンクホークスが優勝すると子どものようにビールかけに興じるという、純粋無垢さゆえのうさんくささもある。しかし、特にひとつ挙げるとすると、”紙の本”という人類が数千年かけて築き上げてきたその営為をまったく尊重せず「紙の本は30年後には消滅する」と言ってのける、そこにあいつのうさんくささがあるといえるかもしれない。その過剰な未来信奉は、逆に言えば、彼が在日3世として、いかに悲しい歴史を背負ってきたか、ということの裏返しかもしれないわけだけど。
──『あんぽん』では、孫正義の源流をさかのぼるべく、祖父母の生地を訪ねて韓国まで取材を敢行。さらに、父親である孫三憲という男の取材に、多くの紙数を費やしています。
佐野 そもそも、『あんぽん』の連載がどうして始まったかというと、「週刊ポスト」で孫正義に「光の道」構想について語らせた1時間のインタビューが始まり。そのインタビューにこぎ付けるまでは、担当編集者もずいぶんガッツを見せてくれたし、下準備に半年くらいかかったんじゃないかな。その1時間のインタビューの最後の10分で生い立ちについて聞き出して、その話を周辺取材をもとに連載をスタートした。そうしたらソフトバンクから連絡が来て、「孫さんが、もっと話したいことがあると言っている」と。これまでの孫正義本ってのは御用ライターが書いたようなどうしようもないものばっかりだから、孫自身も、たとえ嫌な思いをしても一回ガッツリ書いてもらいたいというのがあったんじゃないかな。
──そして、そのインタビューの中で、佐野さんは、孫氏の父親の三憲氏に注目したわけですね。家族を養うために中卒でがむしゃらに働き、極貧の生活からサラ金やパチンコ屋稼業で身を立てた三憲氏のパーソナリティは、その強烈な暴力性と相まって、『あんぽん』の中で異彩を放っています。
佐野 この本の中で一番魅力的なのは、あのおやじ。俺は、あんな純粋なやつは見たことがない。あれの発する言葉の魅力に、俺は震えが来るくらい感動した。「朝鮮人は金きちがいだ」って朝鮮人が言うんだから(苦笑)。それでいて、韓国に渡ると、気候が合って体調がいいし、雑踏に紛れていると血が騒いで涙が出てくると言う。とても純で、その純粋さが、暴力性と直結している。自分のかみさんのことを「冷凍クジラ」と罵ってみたり。おそらく、正義から三憲に、「なんでもぶちまけていいよ」って連絡があったんだろうけど、正義に聞くと「親父は口が悪いだけ」って一蹴するから、ドライな親子関係なんだろう。でも、三憲の”純さ”に比べれば、正義には”濁り”を感じるね。
──孫正義氏には批判も多く、震災後、電力エネルギーに参入しようとしたことについては”政商”だとの声も起こりました。
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