クールジャパンは成功するのか? 外国人にウケるのは商品の「物語」だった
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その理由は、イギリスを取り巻く内政と外政の両方が大きく変化したことにある。99年にはスコットランドとウェールズで独自の議会が設置される。さらに2001年の911以降、イギリスを含めて欧米諸国は、自らの文化に否定的な勢力が存在していることを痛感する。つまり、先進諸国が総じて世界は多文化主義的であることを認めざるを得ず、多様性を重視する志向へと変化した。これによって「要は、イギリスだけがカッコイイとは言えなくなった」のだと、大下氏は指摘する。
さて、こうした一連の流れを聞いた上で重要なのが、なぜイギリスが(あるいはブレア政権が)、クリエイティブ産業振興策を打ち出すに至ったかである。大下氏は、イギリスが文化産業に注目した理由を、「美しいストーリーではなく、産業構造が劇的に変化したため」だと指摘する。具体的には、製造業が海外に流出したことだ。ひとつの産業セクターが失われれば、当然、その分の雇用を確保しなければならなくなる。その方策として、「仮想フロンティア」としてのクリエイティブ産業が重視されたというわけだ。
この点から見ても、日本の「クールジャパン」に絡む政策は、イギリスの政策を反省点を踏まえながら後追いをしていると見てよいだろう。日本の政策がイギリスと異なる点は、政策で扱う産業の多様性だ。この政策で振興が目指されるのは文化産業だが、日本では、観光・食・住の要素までもが含まれる。つまり、イギリスに比べて幅広い産業に「日本ブランド」の要素をもたらすことができると言える。
その方法を示唆したのが、続いて講演した株式会社ちん里う本店のゾェルゲル・ニコラ氏だ(なんの会社かと思ったら、小田原にある梅干しの老舗だそうで「妻が社長です」と自己紹介)。ニコラ氏は、日本には「老舗」と呼ばれる店舗が山のように存在することを取り上げ、日本の製品の特徴を「物語のあるもの」だと指摘する。具体例として、ニコラ氏は甲州印伝の名刺入れを取り出し、「これは、もともとは鎧の部品だった。“あなたの鎧の一部になります”という物語を作ることもできるし、珍しいものを持っているに至った物語を伝えることもできるんです」と話す。さらに、熊本象眼や、狗張り子なども取り上げて日本の製品の持つ「物語」の豊富さを次々と指摘した。
日常生活において、衣服でも文房具でも、単に見てくれのよいものよりは伝統や開発に至るまでの物語があるもの、あるいは、フェラーリのように所有することに手間も金もかかるもののほうが「買ってよかった」という感覚を抱かせるはず。それは、世界共通なのではないかと考えた。
(取材・文=昼間たかし)
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