行きすぎたシステム社会に警鐘を鳴らす“ユナボマー・マニフェスト”の映画化『モンスターズクラブ』
#映画 #パンドラ映画館
(草刈麻有)が山小屋を訪ねてくる。兄妹の
関係は、ユナボマーとその弟を投影したもの。
本作の主人公・垣内良一(瑛太)は、夏目漱石や宮沢賢治といった日本文学を愛する知的でクールな若者だ。山小屋にひとりで暮らし、必要最低限の狩猟によって食料を賄っている。会社を経営していた両親(國村隼、松田美由紀)はすでに他界し、良一に狩猟の仕方を教えてくれた優しい兄・ユキ(窪塚洋介)は若くして自殺してしまった。弟のケンタ(KenKen)もバイク事故で命を散らした。残る肉親は、大学進学を控えた妹のミカナ(草刈麻有)だけ。山小屋を訪ねてきたミカナが「みんな、いなくなっちゃった」とこぼすと、「まだ、オレとお前がいるじゃないか」と励ます。宮沢賢治と妹トシみたいに仲が良い兄妹だ。ただし、宮沢賢治が『グスコーブドリの伝記』などの童話を書き残した代わりに、良一は黙々と爆弾を作り続ける。高度にテクノロジー化の進んだ現代社会に対し、「自然へ帰れ」とメッセージを伝えるために。
岡山での隠遁生活中に“ユナボマー・マニフェスト”を読んだ豊田監督は、「アメリカではなく、日本に向かって言われている気がして」と話す。確かに、勤勉さを美徳とし、和を重んじ、空気を読み合う日本人は、システムのベースが一度固まると、各人が職人的スキルを発揮し、そのシステムを瞬く間にさらに完成度の高いものへと押し上げていく民族だ。高度に洗練されたシステムを築き上げるのと同時に、そのシステムをよりスムーズに機能させるために、途中で立ち止まる者や反対意見を唱える少数派を認めようとしない。過剰に進みすぎたシステムが招いた大惨事が、福島第一原発事故だったのではないか。
日曜日の夕方、テレビの前でしばし夢想する。サザエさん一家では原発事故のニュースを見ながら、どのような会話が飛び交ったのだろう。都内の企業に勤める波平とマスオはシラフではうかつなことは口にできないかもしれないが、舟とサザエは家族のことを考えて3.11以降は慎重に食材を選んでいるはずだ。カツオやワカメの通う学校は福島からの転校生を受け入れているかもしれないし、クラスの中には防災問題や今後のエネルギーの在り方を作文の題材にした級友たちもいたに違いない。出版社に勤めるノリスケは原発問題を取材する機会が少なからずあっただろうし、隣に住む作家の伊佐坂先生は反核小説を構想中かもしれない。まだ幼いタラちゃんやイクラちゃんにとっても、重大な問題だ。いつもと同じように公園の砂場で遊ぼうとしたら、「今日は風が強いから、おうちで遊びましょうね」と言われ、きょとんとしている。「子どもは風の子だって言ってたのに、何でですか~?」「バブー!」
爆弾魔ユナボマーが書いたマニフェストと愉快なサザエさん一家の生活は、決して無関係ではない。
(文=長野辰次)
『モンスターズクラブ』
監督・脚本/豊田利晃 出演/瑛太、窪塚洋介、KenKen、草刈麻有、ピュ〜ぴる、松田美由紀、國村隼 配給/ファントム・フィルム 4月21日(土)より渋谷ユーロスペースほかにてロードショー <http://monsters-club.jp>
(c)GEEK PICTURES
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