祭りの終わりと新ステージの幕開け、3部作完結『サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』
#映画 #パンドラ映画館
のMC、デブニートのイック(駒木根隆介)
と日和見主義のトム(水澤紳吾)。今回は
栃木にやって来ました♪
夢が重たい。いつから、こんなにも“夢”を持つことが重要視される社会になったのだろうか。人気アーティストは「夢を追い掛けているあなたが好き」と歌い、人気ドラマの主人公は「夢はあきらめない限り、必ず叶う」とのたまう。本当にそうなのか? いや、違う。「夢を持て」とか「夢に向かって走れ」とか言っといたほうが、楽で口当たりがいいから彼ら・彼女らは口走っているだけなのだ。夢の正体を見極めた上で身の程を知りましょう、甘言に惑わされずにまずは生活能力を身に付けましょう、ある段階で路線変更することも視野に入れましょう……そういう地味なテーマでは歌やドラマにしにくいからスルーされる。若者たちに理解を示す寛容な大人のふりをしたエンタメ業界の詐欺師たちは「ビッグな夢をつかもう」「夢に向かってはばたけ」とお題目のように繰り返す。これでは射幸心を煽る新興宗教「ドリーム教」だ。作詞家やドラマの製作者は詐欺罪で捕まる心配がないので、手抜きかつ無責任に「夢」「夢」「夢」と連呼する。主人公が夢を追って走っていく様子が歌やドラマのエンディングを飾る。でも、夢を追い続けて引き返せなくなった人たちの屍が、崖の下には累々と重なっていることに言及する人は極めて少ない。
残念なことにさほどヒットしなかったが、北野武監督&主演作に『アキレスと亀』(08)がある。少年の頃に絵がうまいと誉められた主人公・万知寿は夢を叶えて画家となるが、特出した才能に恵まれていたわけではなかった。そのため、中年になった万知寿の一家は生活にきゅうきゅうとし、離散するはめになるという辛口ドラマだ。アキレスと亀の足並みが一生揃うことがないことに例え、自分の夢を叶えることと幸せな家庭生活を送ることは別問題であることが描かれている。『アキレスと亀』の公開時に北野監督に話を聞いたところ、北野監督は若い頃は数学者になるのが夢だったと語った。でも、自分が数学者として食べていくことは明らかに無理なことが分かっていたので、お笑いの世界に入ったそうだ。「自分が成りたかった職業に就けなかったんだからさ、せめてその世界で売れなくちゃ」という想いで舞台に上がっているうちに、運良くお笑いブームに乗ってツービートとして売れっ子になった。ビートたけしとしての人気と名声は、叶えられなかった夢の代償だった。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事