さよなら119系 浅春の飯田線の旅――雨と涙の下山ダッシュ
#鉄道
■飯田線の儀式「下山ダッシュ」
翌朝、小和田駅から始発電車に乗り込む。登山に使っている40リットルのザックを背負い、自転車も担いで乗り込めば、車内はやはり鉄道愛好家風の人々がちらほらと。しかし、乗車駅と持ち物は、こちらのほうが妙らしく「この人はなんなのだろう」と、チラ見されている。たしかにザックはともかく、自転車まで持っているのは珍しいかもしれない。
『究極超人あ~る』を見ている人ならばピンと来るだろうが、自転車を持参したのには目的があった。「下山ダッシュ」の完遂が、それである。さすがにザックを背負って走るのは辛いので、妥協の産物が自転車である。しかし、天候は最悪。車内アナウンスが「次は下山村~」とアナウンスする頃には大粒の雨が降り始めている。しかし、ここで諦めては自転車を持参した意味がない。慌てて雨ガッパを着込み、ザックを背負う。
駅に到着しても、慌ててはならない。地図を確認しながら、列車が見えなくなるまで見送るのだ。「また20分後に会いましょう」と、つぶやきながら。
列車が見えなくなったら、自転車に跨り、交通ルールを守りながらも猛ダッシュである。目指すは、伊那上郷駅。距離はさほどではないが、下山村駅から伊那上郷駅はすべて上り坂である。次第に雨が強くなってくるし、準備運動もしていないので、自転車とはいえ、筋肉が悲鳴を挙げる。
雨も降っているし、田舎ゆえか車は走っているけれども、歩行者はまったく見かけない。
ザックを背負って、雨ガッパを着込んで必死に自転車を漕いでいる様は、ちょっと異様である。とはいえ、乗り遅れれば敗北感と共に、一時間あまり呆然と次の列車を待たなければならない。必死でペダルを漕いで進めば、さらに坂道はキツくなっていく。「アホらしい、もうやめようかな……」と、半ば諦めそうになったところで、ようやく目の前に線路と踏切が見えた時は、心底ホッとした。こうして、列車到着の5分前に伊那上郷駅に到着することができたのである。
成功を祝って一人で缶ジュースで乾杯して、20分ほど前に別れた列車に乗車。車掌は「ああ、さっきの人か」といった感じで、一瞥して横を通り過ぎていく。おそらく、この路線に乗務していたら、電車と競争する人なんて、珍しくもなんともなくなっているのだろうか。
飯田線が飯田市内をオメガカーブを描くように走るがために、直線距離で走れば列車に追いつくことができるという「下山ダッシュ」。今でも、自転車ではなく自分の足で挑戦する人は多いというが、最初は伊那上郷駅からスタートすることをオススメする。ずっと下り坂なので、ちょっとは楽なハズだ。
■今も健在! 元祖「アニメの聖地」
再び列車に乗って次の目的地、田切駅を目指す。ここが、今では知る人ぞ知るアニメの聖地だということは、どれだけの人が知っているだろうか。今回の旅行のきっかけであった『究極超人あ~る』のOVAが製作されたのが1991年。その時に前述の「下山ダッシュ」と並んで登場したのが、この田切駅である。一時は、数多くのファンが訪れたという、まさに<聖地巡礼>の元祖ともいわれる駅である(最近は麻雀漫画『咲-Saki-』の聖地だったりもする)。そして、駅近くの元酒屋だった個人宅では、今でも『究極超人あ~る』の駅スタンプを保管しているという。
期待を持って降りた田切駅は、ホームが極端に狭い駅だ。小さな待合室にはタバコの吸い殻が転がっていたので、まずは聖地に到達した感動を味わいつつ、簡単に掃き掃除(ホウキとちりとりは備え付け)。そして、駅周辺を撮影しながら駅スタンプを求めて歩き出す。
事前に、駅スタンプを保管している酒屋は今は商売をやめていて個人宅になっているという情報を得ていたが、元酒屋っぽい建物はすぐに見つかった(今は個人宅のためかネットでも詳細な情報は掲載されていない。もし、これを読んで訪問を決意したならば、自分で調べてほしい)。とはいえ、個人のお宅なので迷惑でないか躊躇しながらドアをノックする。すぐに返事がして、おばあさんが出てくる。
「あの、こちらに駅スタンプがあると聞いてきたのですが……」
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